敗戦直後の日本経済と生活
空襲で工業都市が壊滅し、工業生産力が激減しました。また、海外からの復員(兵士)・引揚げ(民間人)は人口急増による食糧不足を生み、遅配・欠配が続くなか、人びとは農村への買出しや闇市での闇買いで生き残ろうとしました。
こうした物資不足に加え、戦争の事後処理のために通貨の発行量を増やしたことで貨幣価値が下がり、激しいインフレーションが生じました。
猛烈なインフレーションに対して政府の対応
〔幣原内閣〕は金融緊急措置令(1946)で、銀行預金の引出しを禁じる預金封鎖と、旧円の流通を禁じて強制預金させる新円切替を実施し、さらに新円引出しの上限金額を設定しました。貨幣流通量を減らして価値を上昇させ、物価を下げようとしたのです。しかし、インフレ抑制の効果は一時的でした。
〔第1次吉田内閣〕のときから傾斜生産方式が実行され、石炭業・鉄鋼業へ資金や資材を集中的に傾斜配分しました。生産回復で物資供給を増やし、物価を下げようとしたのです。しかし、復興金融金庫から産業への融資が増えると、貨幣流通量が増えて価値が下落し、物価が上昇しました(復金インフレ)。
戦後展開していった労働運動
労働者の権利が保障されると労働運動が高揚し(メーデーの復活、総同盟[右派]と産別会議[左派、共産党が指導]の結成)、官公庁労働者がまとまり吉田内閣打倒などを掲げた全国一斉のゼネラル・ストライキ(二・一ゼネスト1947)が計画されましたが、GHQの指令で実行前日に中止されました。
冷戦が東アジアに波及するなか、アメリカは占領政策を転換し、労働者の実力行使による政権奪取を抑止しました。GHQの指令で〔芦田内閣〕は政令201号を発し、のち国家公務員法が改正されて公務員は争議権を失いました。
最終的に収束したインフレーション
アメリカは、日本経済の自立を促し、「西側」の一員として東アジアにおける社会主義勢力の拡大に対抗させようとしました。ロイヤル陸軍長官は、日本を東アジアにおける「反共の防壁(共産主義拡大を防ぐ拠点)」にするべきだと演説し、GHQは〔第2次吉田内閣〕に対して経済安定九原則(1948)の実行を命じました。予算均衡や徴税強化など総需要の減少でデフレを生じさせ、輸出拡大で日本経済を自立させる狙いがありました。
まず、来日した銀行家ドッジの指示のもとで〔第3次吉田内閣〕がドッジ=ライン(1949)を実施し、赤字がゼロになるように歳出を減らす超均衡予算を作成しました。さらに、貿易品目ごとに異なった複数為替レートをやめ、すべての貿易品に適用する単一為替レートを採用し、そこに1ドル=360円の固定相場を導入して、輸出の安定を図りました。また、来日した大学教授シャウプらの勧告に基づくシャウプ税制改革では、直接税中心主義(所得税の累進課税方式など)が採用されました。
経済安定九原則で生じたデフレにより、敗戦直後からのインフレは収まりましたが、歳出削減やデフレは官公庁や企業の人員整理を生み、労働運動が激化しました。しかし、国鉄の謀略事件(下山事件・三鷹事件・松川事件)が相次ぎ(1949)、国鉄労働組合や共産党が疑いをかけられ、労働運動は打撃を受けました。
山中 裕典
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