相手を理解しようと意識するだけでいい
共感チャレンジに取り組んだ教え子のなかには、その経験で劇的に考えを変えた者もいました。
中絶に反対していたある学生は、中絶に賛成する理由を説明する親しい友人の話に耳を傾けました。その友人は、レイプされて妊娠した過去を打ち明けたのでした。教え子は、同じような状況になれば、自分も中絶を考えるかもしれないことに気づきました。
また、親の取り決めた結婚をめぐる家族内の対立を解消した学生もいました。両親は自分たちの価値観が否定されているわけではないと実感すると、娘が大学に残ることに、より柔軟な態度を示すようになったそうです。
さらに、かつて非難を浴びせられた家族に連絡をとったLGBTQの学生たちは、予想以上に深い愛情をそこに見出しました。授業で行なった傾聴の演習も共感チャレンジも、私たちが意見の対立に穏やかに向き合う助けとなり、相手の頑なな主張の源を探るように促してくれます。
ブラック・ライブズ・マター運動についても、もしあなたの兄弟が警察官で、その身の安全を案じている場合に抱く感情と、あなたが身の危険を感じている黒人男性で、周囲の人々を怖がらせないためにつねに口を閉ざしていなければならない場合に抱く感情とでは異なるということを、受け入れられるようになるのです。
このような対話は、つねに調和を見るわけではありません。白熱することもあります。しかし、調和に向けて努力するのです。共感を抱くとは、誰が正しくて誰が間違っていると裁くことではありません。
私たちはただ、同じ人間どうし、相手を理解しようとするだけでいいのです。上手に耳を傾け、寛容な姿勢を示して、相手の経験を受けとめるために目の前の懸案事項をいったん棚上げすることで、共感とは実際にどのようなものなのかを互いに伝え合うわけです。このようなかたちで心を通わせられれば、私たちの感情と理性は(自分も含めて)影響を受け入れやすい状態に解放されるのです。
ゾーイ・チャンス
イェール大学経営大学院助教
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