多くの人が社会規範のせいで陥るひどい苦境
2018年の秋、私は自分のやりたくないことは、それなりにうまく断ることができていました。とはいえ、仕事の領域が広がりつつあり、いくつもの新しい試みに挑戦していました。世界中を飛び回って講演するのは胸の躍る経験でしたが、あまりの忙しさに圧倒され、ストレスを感じてもいました。私が状況を打ち明けると、コーチのマンディ・キーンはずばりこう指摘しました。
「あなたは何にでも誰にでもイエスと言いたいのね。情熱をもつことはすばらしいけれど、このままだと燃え尽きてしまうわよ」
こう言い当てられた私は、翌月を「NOvember」と称して、1ヵ月のあいだデフォルトの返事を「ノー」にしようと決めました。
講演依頼にノー! カフェへの誘いにノー! 服飾店や美容室のアップセリング(より高額な商品を顧客に売りつける手法)にノー! 失礼な人たちにノー! 親切な人たちにもノー! 助言を求めてくる見知らぬ人にもノー! 小遣いを無心する家族にもノー! ライティング・ワークショップにノー! 職場の怖い先輩にノー!
もっとも辛かったノーは、前脚を片方なくしたバンディットという名のネコを受け入れないと決めたことでした。もちろん、NOvemberとはいえ、イエスと答えることもありましたが、ほかに選択肢はないかとよくよく考えたうえで応じました。すると日が経つにつれて、私はストレスが和らぎ、自分の決断や時間、そして人生を以前よりコントロールできていると感じはじめました。
NOvemberも終わりに近づく頃には、自分の力をおおいに信じられるようになりました。そこで私は、イエスの大切さをより強く意識しておけるように、ノーと言い続けることにしました。
1ヵ月に及ぶこの挑戦は、私がMBA講座の最初の授業で学生に課す、24時間「ノー」チャレンジの拡大版でした。多くの人は(とくに、善良な人ほど)礼儀に関する社会規範が身に染みついていて、そのせいでひどい苦境に陥ります。私たちは頼みごとをされたり、誘いを受けたりすると、失礼にならないように、なるべくイエスと答えようとします。
ところが、いざ自分が困ったときには、支援を求めて相手を煩わせるような厚かましいまねはできないと感じます。どういうわけか、私たちは他人には寛大にしつつ、自分のことは自分ですべきだと教え込まれているのです。それがどれほど大変なことなのか考えもせずに。
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