(※写真はイメージです/PIXTA)

海外移住や現地に関する情報がインターネット等で入手しやすくなったこと、現地国での外国人誘致政策が進んでいることなどを背景に、退職後、海外への移住を考えている人が増えています。本記事では池野さん夫婦(仮名)の事例とともに、リタイア後の海外移住の注意点について、FPの小川洋平氏が解説します。

老後に夢だったアメリカ移住を果たした夫婦

池野さん(仮名/66歳)はリタイア後にはアメリカに移住し、日本の年金を受け取りながら、退職金など資産を取り崩して暮らしたいと考えていました。

 

池野さんは30代のころに海外赴任の経験があります。その際にサンフランシスコ支店で勤務していた時期が一番楽しく思い出に残っていました。大手IT企業に勤務していた池野さんは、日本で勤務していたころは長時間勤務や営業成績などに対しての上層部からの圧力や人間関係に悩まされていた時期がありましたが、アメリカに赴任したことでそうした悩みから開放されて伸び伸び仕事ができ、現地の友人も赴任期間中に増えたため、リタイア後はサンフランシスコに移住したいと考えていたのでした。

 

同い年の妻は幼少期に親の都合でアメリカに住んでいたこともあり、池野さんの駐在には妻も付いていって、大いに楽しんでいたため、移住には大賛成でした。

 

そして、定年退職まで勤めた池野さんは、現地で友人が所有している家を安く貸してもらえるとのことで、念願の移住生活を叶えます。

 

しかし4年後……思わぬ理由で日本に帰国することになってしまうのです。

 

コーヒーとサンドイッチで2,000円超え…歴史的な円安、物価高に襲われる

移住したとき、すでにアメリカの生活費水準は、日本の生活費水準を大きく上回っていました。そのようななかでも、池野さんは先のことまでしっかり計算してきたつもりでした。保有する5,000万円を超える金融資産を運用し続けながら、公的年金も夫婦合計で月に35万円程度受け取ることができていたため、生活費水準が高くてもしっかり生活できる見通しを立てて移住したのでした。

 

はじめのうちは夢のアメリカ生活に胸をときめかせ、刺激ある日々を毎日楽しく過ごしていました。

 

しかしそんな日々も束の間、コロナ禍への対策やロシアのウクライナ侵攻を受け、物価が大きく上昇してきたことに加え、歴史的な円安がその計画を破綻させてしまったのです。

 

日本の公的年金は原則として物価に連動して受給額が増減し、物価が上がる場合には公的年金の金額も同程度の増額となります(現状、マクロ経済スライドにより物価が上がった場合には上昇率に対し、受給額の増加率は引き下げされています)。

 

しかし、アメリカの物価水準が上がっていっても日本の物価が上がらなければ公的年金は増額にはなりません。

 

さらに、移住した当初は1ドル=110円程度の為替でしたが、2022年~2023年にかけて1ドル=140円~150円程度で推移するようになり、生活費が日本の生活費の2倍以上必要になったのでした。

 

カフェでコーヒーとサンドイッチを注文すれば日本円では2,000円以上の価格になり、スーパーでお菓子や飲み物を買おうとすると、日本では100円程度で買えるお菓子も700円程度必要です。

 

そうなると、毎月の生活費を切り詰めても日本円で40万円程度は必要になり、運用しているとはいえ資産の取り崩しのスピードが速くなってしまいます。想像していたゆとりの生活を送ることが難しく、金融資産も想像以上のスピードで減ってしまい、移住後わずか4年のあいだに1,000万円以上金融資産が減りました。

 

「せっかくアメリカでの暮らしが実現できたのに、たった4年で帰るなんて! 日本になんて帰りたくない!」アメリカ生活が性に合うのか、妻は号泣します。

 

「残念だけれど、このままここでは暮らせないよ……」

 

現実的な池野さんは、涙ながらに妻を説得し、帰国を決断したのでした。

 

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