●東証は2020年以降、研究会において親会社と子会社少数株主との利益相反問題などの議論。
●今後、少数株主保護のため親子関係にある上場会社などは情報開示拡充が求められる見通し。
●このような流れは投資家に好ましく、また企業側にも親子上場解消の動きが一段と広がる可能性。
東証は2020年以降、研究会において親会社と子会社少数株主との利益相反問題などの議論
東京証券取引所(以下、東証)は、2020年1月に「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」を設置しました。従属上場会社とは、支配的な株主である親会社を有する上場子会社のことで、研究会は2020年1月から8月まで4回、2023年1月から11月まで5回の会合を開催し、親会社と子会社を巡る諸問題などについて議論を継続してきました。
親会社とその子会社が、ともに株式を上場していることを「親子上場」といいます。親子上場には、社内の新規事業を分離し、子会社として上場させ、成長を促すという利点もあります。ただその一方で、親会社は、子会社の総株主議決権の過半数を有し、子会社の財務および事業の方針について、決定を支配しています。そのため、親会社の利益が優先され、子会社の少数株主の利益が損なわれる、「利益相反」の問題が発生しやすくなります。
今後、少数株主保護のため親子関係にある上場会社などは情報開示拡充が求められる見通し
親子上場は、日本ではよくみられる形態ですが、海外では多くありません(図表1)。そのため、海外投資家からは、親会社が支配的な立場を利用しかねない親子上場について、企業統治(コーポレート・ガバナンス)上、問題があるとの声も聞かれます。東証が前述の研究会を設置したのは、このような背景もあり、子会社における少数株主の正当な利益を保護するための制度整備などが話し合われてきました。
研究会の会合は直近で、2023年11月20日に開催されましたが、同日「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実について(案)」という資料が公表されました。それによると、東証は今後、親子関係にある上場会社(親会社、子会社とも)と持分法適用関係にある上場会社(上場関連会社を有する上場会社、その他の関係会社を有する上場会社)に、自発的な情報開示の拡充を要請する見通しです(図表2)。
このような流れは投資家に好ましく、また企業側にも親子上場解消の動きが一段と広がる可能性
東証のこのような動きは、少数株主の保護に資するものであり、また、投資判断で重要なグループ経営の情報が広く開示されることも、投資家には極めて好ましい流れであると思われます。また、企業側にも、親子上場の解消によって、コーポレート・ガバナンスを強化し、経営効率を高めようとする動きが一段と広がり、親子上場は減少傾向が続くことが予想されます。
少数株主の保護強化や、グループ経営の情報開示拡充、あるいは親子上場の解消が、いずれも進展していく過程で、日本株の魅力は一段と向上すると考えられます。なお、親子上場の解消方法としては、株式公開買い付け(TOB)などを通じた完全子会社化による上場廃止や、他社への売却があります。いずれの場合も、子会社の価格が市場価格を上回ることがあるため、引き続き多くの投資家が親子上場解消の動きに注目しています。
(2023年12月18日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『親子上場「解消」はさらに進展か?少数株主保護に関する東証の研究会【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト
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