がんになった50代の父、家族に迷惑をかけると気に病むが…
生徒:まだ50代の父が、がんにかかってしまいました。父は自分の体のことより、家族のこれからや、高額な治療費のことばかり心配しています。
先生:それは大変ですね。
生徒:がん治療費はとても高額になると聞いています。お金のことを考えると、不安で夜も眠れなくて。いったいどうしたらいいのでしょう…?
先生:大丈夫ですから、そんなに心配しないで。費用面の不安を少しでも減らし、治療に専念できる制度があります。それが「高額療養費制度」「多数回該当」「傷病手当金」です。たとえば、大腸がんと診断され、窓口負担が3割とはいえ、検査で8万円、手術のための入院で35万円かかり、43万円もの支払いがあったとしましょう。このとき「高額療養費制度」を使うことができます。
◆「高額療養費制度」…1ヵ月あたりの負担上限額を超えたお金があとから戻る
生徒:どのような制度なのでしょうか?
先生:「高額療養費制度」とは、1ヵ月あたりの負担上限額が年齢や収入によって決まっていて、それを超えた分のお金があとから戻ってくるという制度です。
生徒:具体的には…?
先生:たとえば、年収370万円以上770万円未満の人なら、1ヵ月で治療に100万円かかったとしても、高額療養費制度を使えば、ひと月あたりの自己負担が約9万円程度に抑えられます。
◆「多数回該当」…1年のうち「高額療養費×3回」で、4回目から自己負担額が減額
生徒:高額療養費制度を使ったとしても、手術後に抗がん剤治療を長期間続けることになると、かなりの費用が毎月かかり続けることになりますよね…。どうすればいいのでしょう?
先生:そんなときに使えるのが「多数回該当」の制度です。「多数回該当」とは、1年間の間に高額療養費の対象に3回なると、4回目からは自己負担額がさらに減るという制度です。
心配せず、「高額療養費制度」「多数回該当」制度の活用を
生徒:高額療養費制度や多数回該当の制度を使うには、どうしたらいいのでしょうか?
先生:「高額療養費制度」を使おうとするときには申請が必要です。申請の窓口は、会社員なら協会けんぽや組合健保、自営業なら市区町村です。注意が必要なのは、申請してから、上限を超えた分のお金が戻ってくるまでに数ヵ月かかるということです。ですから、早めに高額療養費を申請して「限度額適用認定証」をもらっておくとよいでしょう。それを病院窓口で提示すると、支払いは限度額ですみます。また、マイナンバーカードを保険証として使っている場合は、限度額適用認定証がなくても限度額の支払いですみますし、そもそも申請は必要ありません。
生徒:マイナンバーカードを使ったほうがいいですね!
◆「傷病手当金」…会社員なら、給与の3分の2の金額をトータル1年半まで受け取れる
先生:これらに加えて、会社員ならは「傷病手当金」の制度も使えます。これは、病気やケガのために、連続する3日間を含み4日以上仕事を休んだ場合、会社からその分の給与が出ない場合は、給与の3分の2の金額をトータル1年半までは受け取ることができる制度です。残念ながら、自営業の人の国民健康保険には傷病手当金の制度がありません。
マスコミ報道等で見かける、がんの「先進医療」って?
生徒:インターネットのSNSでは、がんの「先進医療」の情報や患者体験談がたくさん出てきますが、「先進医療」とはどのようなものでしょう?
先生:特定の大学病院などで研究・開発された難病などの新しい治療や手術などは、ある程度実績を積んで確立されると、厚生労働省に「先進医療」として認められます。 先進医療は、公的医療保険の対象にするかを評価する段階にある治療・手術などです(「公益財団法人生命保険文化センター」ウェブサイトより)。
生徒:具体的な治療には、どのようなものがありますか?
先生:先進医療として比較的よく知られているのは、放射線治療の「陽子線治療」、「重粒子線治療」、内視鏡手術支援ロボット・ダヴィンチを使用した患部の切除手術「ダヴィンチ手術」などです。陽子線治療は、水素の原子核を加速した陽子線をがんの患部に照射する方法です。重粒子線治療とは、炭素の原子核を加速させた重粒子線をがんの患部に照射する方法です。どちらも粒子線を使う治療法なので、ピンポイントで病巣に照射することができます。照射の回数が少ないため、身体への負担が少ないというメリットがあります。
生徒:なるほど…。
先生:先進医療は治療効果に関する科学的証拠が少なく、不確実な医療のため、健康保険の対象外となっています。それゆえ、治療そのものは全額自己負担となります。
生徒:全額自己負担となると、かなり高額な費用を自己負担しなければならないということでしょうか?
先生:たとえば、重粒子線治療の場合、1件あたり300万円と高額になります。ただし、先進医療の医療費は、一般的な自由診療とは異なり、確定申告の「医療費控除」の対象となります。
がん保険、必ずしもメリットばかりとはいいきれない
生徒:父はがん保険に加入していませんでした。がん保険には入っておくべきだったのでしょうか?
先生:がん保険に入っていたら、診断給付金、入院給付金、手術給付金、通院給付金がもらえます。また、先進医療特約がついていれば、それを全額カバーしてくれます。
生徒:それはいいですね…。父にも加入してもらえばよかったのかな…(涙)。
先生:じつは、高額な先進医療の費用をカバーできるといっても、そもそも自分に適用できる治療法と出会う確率はそこまで高くないのですよ。仮に適用できるものが見つかっても、100万円を超える先進医療はそんなに多くありません。また、がん保険では、差額ベッド代や、厚生労働省が定めていない自由診療の医療費はカバーできません。がん保険は保険料がとても高額であり、払い損になってしまう可能性が高いので、がん保険に加入せず、自分でお金を貯めておいたほうがいいでしょう。
生徒:勉強になりました。父にはお金を心配することなく、安心して治療を受けるよう伝えます。ありがとうございます。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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