※画像はイメージです/PIXTA

中国の1979年に始まった「改革開放」政策によって多くの人々が貧困を抜け出したものの、一方で所得格差が拡大し、その格差が世界で最も大きい社会の1つともいわれています。本稿では、香港の金融調査会社ギャブカルのリサーチヘッドであり、米国の米中関係委員会(NCUSCR)のメンバーでもあるアーサー・R・クローバー氏による著書『チャイナ・エコノミー 第2版』(白桃書房)から、中国と他国の所得格差を比較しながら、紐解いていきます。

「中国」の所得格差の特徴

[図表1]所得格差の国際比較ー―税引き後かつ社会保障給付含む(1990-2017年)

 

[図表2]中国と米国の一次分配/二次分配での格差比較

 

[図表1][図表2]は、世界の所得格差に関する最も包括的なデータベースを用いて作成したものだ。

 

最初の図は、6ヵ国の可処分所得を基準としたジニ係数を示している。可処分所得とはつまるところ、税金をすべて支払い、社会福祉給付をすべて受け取った後の所得の合計である(これがジニ係数を計算する際の標準となる所得である)。

 

この図を見ると、中国の格差は1990年から2010年の間に急速に拡大し、ピーク時には0.43を超えていたことがわかる。中国の所得格差は、米国やドイツ、韓国などの先進国と比べると、はるかに大きいことは明らかだ。

 

しかし、この図からはこれ以外に見えてくる点もある。

 

1つ目は、所得格差の拡大が、この期間、世界的に起こっていたということである(ブラジルは例外だ。同国では極度に所得格差が大きかったが、ポピュリスト的なルーラ・ダ・シルバ大統領の下で、2000年代にいくぶん縮小した)。

 

2つ目は、中国の所得格差は大きいものの、ブラジルとインドという2つの開発途上の大国と比べれば、まだ小さいということだ。

 

3つ目は、2010年以降、格差が少し縮小し始めたことである。この3つ目の点は他の研究でも示されている。

 

[図表2]はさらに興味深い。この図では、米国と中国だけを取り上げ、税金と社会福祉給付を考慮したものと考慮しないものの両方のグラフを示している。

 

この図からわかるのは、一次所得分配(税引き前・給付前)では、米国の方が中国よりも格差がずっと大きいということである。ジニ係数は0.5を超えている。

 

しかし、税と給付を考慮すると、米国の方が中国よりもずっと格差は小さくなる。米国の政治家は「社会主義者」のレッテルを拒否するが、実は米国は非常に累進的な税制と幅広い社会福祉プログラムを持ち、それによって非常に不平等な所得分配の痛みを和らげている。

 

これに対して中国は、「共産主義」の看板を掲げる党によって統治されているにもかかわらず、社会のセーフティネットと税制の力は非常に弱く、所得を富裕層から貧困層に移転する働きはほとんどない。

 

中国が掲げる「社会プログラムの質的向上」の効果

[図表2]からは、もう1つはっきりわかる点がある。それは、中国の2010年以降の所得格差の縮小は、大半が社会給付の拡大によって実現されたものであり、一次所得分配における格差の縮小が主要因ではないということだ。

 

これは驚くべきことではない。2005年以来、所得格差の縮小と、失業保険や最低生活保障、年金、健康保険などの社会プログラムの質的向上が、国の政策のテーマの1つとなっている。

 

これらの政策の結果はなかなか表れなかったが、今では目に見えるようになっている。これに対して、2011年から始まった5ヵ年計画で推進されるべきとされていた、一次所得分配の格差の改善は、まだあまり効果が出ていないようだ。

 

中国の格差の水準を東アジアの先進国と同程度まで大幅に縮小するには、はるかに積極的な政策が必要になるだろう。特に、政府は資本所得に対する課税を拡大して徴収するべきであり、また、少数の役人や実業家らが握っている莫大な資産を縮小する必要がある。言い換えると、汚職の問題を解決しなければならない。

 

 

アーサー・R・クローバー

香港金融調査会社ギャブカル

リサーチヘッド

 

※本記事は、THE GOLD ONLINE編集部が『チャイナ・エコノミー 第2版』(白桃書房)の一部を抜粋し、制作しました。

 

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