会社役員とは、経営方針の決定、業務や会計の監査などを担う立場の人を指します。会社法で定義されている会社役員は、取締役・会計参与・監査役の3役です。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、事例をもとに会社役員に関するエビデンスについて解説します。

本人が欠席した取締役会会議は有効か

重要情報3

 

〇取締役会決議の有効性/深夜の電子メールによる招集通知と特段の事情
( 平29-04-13 東京地裁 棄却 控訴 TAINSコードZ999-6156)

 

本件は、原告(Aグループの創業者・93歳)が、被告A社の取締役会における原告を代表取締役から解職する旨の決議(本件決議)は、原告に対する適法な招集通知が行われなかった瑕疵により無効であると主張して、A社に対し、本件決議が無効であることの確認を求めた事案です。

 

東京地裁は、次のように判示して原告の請求を棄却しました(東京高裁・棄却・確定)。

 

勝手に取締役を解職させられた…取締役会の前日深夜にメール

原告が自らパソコンを操作することがないこと等を考慮すると、招集通知メールがメールサーバに記録されたことをもって、原告の了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない。

 

加えて、取締役会前日の深夜のメール送信であって、実質的に見ても招集通知がされたと評価することは困難である。

 

取締役会への出席/欠席に関わらず、結果は同じだったと予測

しかし、本件取締役会には、原告を除く取締役ら全員が出席しており、そのうち棄権した原告の次男を除く全員の賛成をもって本件決議が成立している。

 

原告を除く取締役らは、取締役会の前夜、顧問弁護士も交えて協議をし、原告の長男が判断能力の低下した原告を利用してA社に混乱をもたらすことなどを防止するために、原告を代表取締役から解職するとの意見を形成するに至っている。

 

以上によれば、原告がA社の取締役会において相当に強い影響力を有していたことなどを考慮しても、原告が本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるというべきである。

 

したがって、招集手続の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、本件決議は有効になる。

株主総会決議が取消しになったケース

重要情報4

 

〇株主総会決議の取消しの訴え/準共有株式に係る議決権行使の適法性・決議方法
(最高裁判所第一小法廷平成25年(受)第650号株主総会議決取消請求事件(棄却)(確定)平成27年2月19日判決(判示事項)TAINSコードZ999-5316)

 

1 本件は、被上告人(株式の共有者)が、臨時株主総会の決議(本件各決議)には決議の方法等につき法令違反があると主張して、上告人(特例有限会社)に対し、会社法831条1項1号に基づき、本件各決議の取消しを請求する訴えである。

 

会社法106条《共有者による権利の行使》本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされた本件議決権行使(Bによる準共有株式の全部についての議決権の行使)、同条ただし書の上告人の同意により適法なものとなるか否かが争われている。

 

民法の規定に反した権力行使は、適法でない

2 会社法106条本文は、

 

「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。」

 

と規定しているところ、これは、共有に属する株式の権利の行使の方法について、民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものと解される。

 

3 その上で、会社法106条ただし書は、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と規定しているのであって、これは、その文言に照らすと、株式会社が当該同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される。

 

4 そうすると、共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではないと解するのが相当である。

 

5 そして、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条《共有物の管理》本文により、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるものと解するのが相当である。

 

指定および通知を欠いた権力行使は、民法に反するので適法でない

6 これを本件についてみると、本件議決権行使は会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされたものであるところ、本件議決権行使の対象となった議案は、

 

①取締役の選任

②代表取締役の選任並びに

③本店の所在地を変更する旨の定款の変更及び本店の移転

 

であり、これらが可決されることにより直ちに本件準共有株式が処分され、又はその内容が変更されるなどの特段の事情は認められないから、本件議決権行使は、本件準共有株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられるものというべきである。

 

7 そして、事実関係によれば、本件議決権行使をしたBは本件準共有株式について2分の1の持分を有するにすぎず、また、残余の2分の1の持分を有する被上告人が本件議決権行使に同意していないことは明らかである。

 

そうすると、本件議決権行使は、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられているものとはいえず、民法の共有に関する規定に従ったものではないから、上告人がこれに同意しても、適法となるものではない

 

8 以上によれば、本件議決権行使が不適法なものとなる結果、本件各決議は、決議の方法が法令に違反するものとして、取り消されるべきものである。これと結論を同じくする原審の判断は、是認することができる。

 

 

伊藤 俊一

税理士

 

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※本連載は、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 2法人編

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伊藤 俊一

ぎょうせい

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