「気に入らなかったら全額返金」ビジネスが成り立つワケ
皆さんにも経験のある「目の錯覚」。小さな皿と大きな皿に同じパンを載せると、パンの大きさが違って見えてしまいます。じつは、われわれの脳も、目と同じように「錯覚」を起こすのですが、これはあまり知られていません。
たとえば、非常に小さな確率は、実際より大きく感じます。だから、宝くじが当たるような気がしたり、飛行機に乗るのが怖くなったりするのですね。宝くじを買うこと自体は非合理的とはいえないと筆者は考えていますが、そのあたりのことは別の機会に。
本稿が論じるのは「一度手に入れたものは手放したくない(=愛着)」という錯覚についてです。
学生にマグカップを見せて「何ドルなら買いたいか?」と聞いた場合と、学生にマグカップを与えてから「何ドルなら売ってくれるか?」と聞いた場合では、後者の方が高い金額を回答した学生が多かったそうです。
同じマグカップについて、マグカップを与える前と後に「このマグカップは貴方にとって何ドルの価値がありますか」と質問したのと同じことなのに、回答が異なったのだとしたら、それは脳の錯覚によるものでしょう。「マグカップを使ってみたら思っていたより使い勝手がよかった」ということはあり得ますが、筆者の認識ではマグカップの使い勝手に大きな差はありませんから。
通信販売で「気に入らなかったら自由に返品していただいて結構です」「全額返金します」といったものがあります。返品の山ができているのでは…と心配している人もいるでしょうが、実際には返品はそれほど多くないそうです。
日本人には「一度使ったものを返品するのは失礼だ」と考える人も多そうですが、一度自分のものになると愛着がわいて手放したくなくなる、という要因も重要なのかもしれませんね。
組織改革の難しさも「愛着」が影響している!?
世の中では、さまざまな改革が叫ばれていますが、成功しているものは多くないようです。仮に改革した場合、
A=10の損失を被る
B=12の利益を得る
といった状況になるならば、全体を見れば、改革することで事態が改善するといえますが、Aの反対運動のほうがBの推進運動よりも強力だ、ということもままあるようです。
Bから11の税金を取り、Aに11を支払えばいいわけですが、そこに金銭的な損得だけでは割り切れない「愛着」の要因が加わると、簡単ではないのかもしれません。
加えて、Aは自分の損失を正確に予測できる一方、Bは改革によって自分が得られる利益を正確に予測できないため、推進運動に力が入らない、ということもありそうですが…。
働き手の心情をうまくつかむ「給料の払い方」
企業が儲かると、従業員にもボーナスをはずむ場合も多いでしょう。かつては「株式会社は従業員の共同体」でしたらから、当然のように儲かったら従業員に分配されましたし、最近でも「企業は株主のものであるが、儲かったら従業員にもお裾分けくらいしてあげよう」という企業は少なくないようです。
その場合、賃上げよりもボーナス増額が選ばれるのが普通のようです。それは、
「今期は儲かったが、来期も儲かるかどうかわからない」
↓
「来期に儲けが減った場合、給料を元に戻すと従業員の不満が大きいだろう」
↓
「給料を上げるのは危険だ」
ということのようです。
給料が上がると、従業員は「高い給料」を自分のものだと考えるので、それを失うことに強い抵抗を感じますが、ボーナスであれば「増えたり減ったりすることが前提となっている一時金」と捉えているので、減っても不満が出にくい、ということのようです。
もっとも、セールスマンの給料については、「厳しいノルマを課すが、給料は上げる」という選択肢もありそうです。ノルマが達成できないと給料の引き上げを取り消されてしまうでしょうから、必死に働くようになるかもしれませんよ。
会社全体の利益は個々人の努力だけでは左右することができませんが、セールスマンのノルマは個人の努力で達成できる可能性が高まるので、頑張るインセンティブとなり得ますし、未達成の場合に給料が引き下げられても、会社を恨むより自分の努力不足を反省する、というところが上記との差だといえるでしょう。
子どもに勉強を促す方法として応用するのは…
子どもに勉強させるのは大変です。「勉強したらご褒美をあげる」「よい点をとったらご褒美をあげる」と約束する親も多いでしょう。これも同様に「よい点をとったらオモチャをあげる。でも、勉強しなかったり悪い点を取ったりしたら、取り上げるからね」といっておくという選択肢を検討してみましょう。
もっとも、リスクが2つあることには要注意です。ひとつは、オモチャで遊んでしまって勉強しなくなる、というリスクです。鍵をかけておければよいのですが。もうひとつは、いつまでも勉強せず、悪い点ばかり取り続けると、オモチャが無駄になる、というリスクです。別の子へのご褒美として転用できるようなオモチャであればよいのですが。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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