キャッシュレス推進の一方で「新紙幣」を発行する狙い
前述したように、日本ではキャッシュレス化が遅れています。その原因として「現金信仰が強い(偽札が少ない)」「ATMインフラが整っている」「公共料金自動引き落としサービスなどキャッシュレスサービスの充実」などが挙げられます。
これに対して、キャッシュレス化が進んだ国では、現金を一切持たずスマホだけで決済が完結します。中国では屋台での決済や寄付もスマホ一台で行われています。皮肉な話ですが、日本のような先進国より、偽札が多くて現金への信頼度が低い国のほうがキャッシュレス化が一気に進んだのです。
日本も、主にインバウンド需要を取り込む目的でキャッシュレス社会を目指しています。しかし、不思議なことに2024年には、20年ぶりに新紙幣が発行されます。
1万円札の肖像画は福沢諭吉から渋沢栄一に、5千円札は樋口一葉から津田梅子に、千円札は野口英世から北里柴三郎に変わります。「キャッシュレス時代になぜ、新規にお札を出すの?」という素朴な疑問が聞こえてきます。
新紙幣のデザイン変更の大きな理由のひとつは、偽造(偽札)の防止です。2020年には、およそ2,600枚もの偽1万円札が発見されたといいます。
新紙幣では、角度を変えて見ると回転した立体画像が浮かび上がるホログラムなど、最新技術が取り入れられています。
また、指の感触で紙幣の違いがわかるマークを入れる、額面数字(「10000」、「5000」、「1000」)を大きくして見やすくするなど、さまざまな工夫がこらされているのです。
しかし、偽造防止だけではわざわざ新紙幣にする必然性が乏しいといわざるを得ません。前述のように、世界的にみれば日本は偽札が少ない国だからです。
その他に、タンス預金で眠っていたお金をあぶり出し、国民の資産を把握するという狙いが考えられます。
新紙幣が発行されても、旧紙幣が法的に使えなくなるわけではありません。しかし、時間が経つにつれ、旧紙幣は時代遅れで特殊なものになっていきます。また、旧紙幣の受取を拒否するお店もあるでしょう。いずれ、タンス預金で眠っていた旧紙幣は銀行に持ち込まれることにならざるを得ません。
これによって、国が国民の資産を把握できるようになるという効果が考えられるということです。
神樹 兵輔
経済アナリスト・投資&マネーコンサルタント
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