変動金利を選んだほうが有利…とはいえないワケ
このように、住宅ローンの変動金利は日銀が決める「政策金利」、固定金利は長期資金の需給関係で決まる「長期金利」の影響を受けます。そして、政策金利が当面の間「マイナス金利」のまま据え置かれる可能性が高いのに対し、長期金利はこれから上昇する可能性があります。
それでは、現時点では、変動金利を選んだほうが有利なのでしょうか。変動金利をプッシュする見解の論拠は、主に以下の2つです。
・当面の間、政策金利は「マイナス金利」が続く可能性が高い
・「住宅ローン減税」で還付額の率が変動金利を上回る「利ザヤ」が生じている
第一に、政策金利が上昇するとしたら、それは日銀が「マイナス金利」をやめるときです。この点について、日銀は金融政策を修正していますが、他方で再三にわたり、大規模金融緩和政策自体は当面の間継続すると強調しています。したがって、当面の間は「マイナス金利」が継続するとみられ、少なくとも、変動金利が急激に大きく上昇する可能性は低いと考えられます。
第二に、変動金利には「住宅ローン減税」による「利ザヤ」のメリットもあります。住宅ローン減税は、住宅ローンの借入残高の0.7%の額について所得税から「還付」を受けられる制度です。現状、変動金利はこの0.7%よりも低いので、変動金利を選んだ場合には差額分の「利ザヤ」を得られます。
これら2つの事情に鑑みれば、現状で住宅ローンを借りるならば、一見、変動金利を選んだほうが有利であるようにも感じられます。
しかし、長期間でみると、政策金利が上昇する可能性は否定できません。実際に、日銀は前述の通り、金融政策をごく短期間で2回にわたって修正しています。その背景には、深刻な物価高があります。
現在の物価高の原因は、ロシアのウクライナ侵攻が続いていることによる世界的なエネルギー価格・食料価格の上昇と、記録的な円安にあります。このうち、円安は日銀の金融政策に起因しているので程度織り込み済みだったかもしれませんが、ロシアのウクライナ侵攻は事前に予測困難だったものです。
経済の世界では何が起きるかわかりません。予測困難な何らかの事情が起き、日銀が金融政策を大きく転換して、政策金利の引き上げに転じる可能性も考えられます。あるいは、万が一日本の経済が好転した場合も、政策金利が引き上げられる可能性があります。
いずれにしても、長期的にみると、政策金利が大きく引き上げられる可能性は十分に考えられます。したがって、必ずしも、変動金利を選んだほうが有利だとは断言できません。