短期の利益確定に走らないように注意
これまでのNISAの利用状況を金融庁の公表データで見てみると、一般NISAはもとより、つみたてNISAでもそれなりの金額の資産が毎年売却されています。2022年の年間の売却金額は95億円で、買い付け額の7%強に当たる数字です。
つまり、積み立て始めてから数年で売ってしまっている人が、それなりの割合でいるということです。年代別では20代が比較的多く売却している傾向です。
利益が出ていたから売ったのでしょうし、引き出したお金に何か有用な目的があったのなら問題はないのですが、運用益非課税のメリットを活用した資産形成という面ではもったいないなと思います。
例えばNISAで毎月2万円を2年間積み立て、5万円の利益が出ているので売ったとします。通常はその利益の約20%が税金として徴収されるのですが、運用益非課税の制度では徴収されないので、この場合のメリット額は約1万円です。
一方、60歳まで引き出せないiDeCoでは、すぐに受け取れないので短期の利益確定は少ない傾向です。こちらは老後に利用目的が限定されるので、積立額は半分の1万円として、年利回り4%で20年間積み立てたとして試算してみます。
すると積立総額240万円に対して運用益は約127万円となり、非課税によるメリット額は25万円強にもなります。期間を10年としても運用益は27万円なので、手にする運用益も、非課税の恩恵を受けられる金額も、たった2年間で売ってしまうよりは相当大きくなります。
このように、資産価値が増大するものに積み立て投資をする場合、長期の方が大きな利益を生むことは事実です。でもそれは頭では分かっていても、人間は目の前にすぐに手にできる利益を差し出されると、どうしてもそちらを優先する行動に出がちです。
運用益はマーケット動向次第ですから、特に利益が出ている局面では、「待てば利益がもっと大きくなる」という期待よりも、「売らずに値下がりして損したらどうしよう……」という不安の方が往々にして大きくなります。
結果として、遠い将来の不確実な大きな利益よりも、今確実に手に入る小さな利益を確保したい気持ちに駆られるのです。特にNISAの場合は、60歳まで引き出せないiDeCoと違って、売却さえすれば現実にその利益を今手にできるため、利益確定したくなる誘惑が強くなるので要注意です。
大江 加代
確定拠出年金アナリスト
株式会社 オフィス・リベルタス 代表取締役