3.最新テクノロジー×農業で新たなビジネスを創造
日本経済の可能性は、高齢者向けのビジネスにとどまりません。農業、林業、水産業などにも大きなポテンシャルがあります。海外では、AI、ロボット、ビッグデータなどの最新テクノロジーを駆使した農業(アグテック)が盛んとなっています。翻って、日本ではこうした新技術の活用がまだそれほど進んでいません。
新たな技術、例えば農業用ドローンや自動走行トラクターを戦略的に活用するためには、個々の農家が管理する農地面積の拡大がカギとなります。日本では、農業人口の減少が問題視されていますが、国際比較をすると、実は日本の農地に対する農業労働者の数は多すぎることがわかります。生産性の高い大規模農家や高い技術・資金力・経営ノウハウを持つ企業が規模のメリットを生かした農業を実現することで高い成長が期待できます。
また、従来の農業に観光、教育、自然エネルギーなどの他の分野を組み合わせた新しい産業、「社会農業」も、日本経済の次なる成長エンジンとなる可能性があります。
社会農業のひとつの形として観光と農業を組み合わせた観光農業があります。農作物の栽培や加工を体験したり、農家宿泊を満喫したりするものです。欧州では、アグリツーリズムと呼ばれる、農場や農村に滞在しバカンスを過ごす観光スタイルが広がりつつあります。
さらに、GXやDXにより日本経済の構造を変えることも経済成長に貢献するでしょう。GXとはグリーン・トランスフォーメーション、DXとはデジタル・トランスフォーメーションのことで、前者は、グリーン化を進めることで、後者はデジタル技術によってビジネスや人々の生活、さらには経済・社会の構造が変わることを意味するものです。企業が、GXやDXに積極的に取り組めば、国内で投資が増えることが期待されます。
4.海外市場への進出
グローバルな視点を持つことも非常に重要です。海外市場への進出は企業の成長のカギとなります。実際に過去20年間、一部の大企業では海外直接投資やM&Aなどに積極的に取り組んでいます。大企業だけでなく中小企業も、世界と競争し、独自の強みを生かした商品やサービスを生み出すことで、成長が期待できます。そのためには、技術革新や研究開発への投資、そして市場のニーズに対応する柔軟性が必要です。
また、海外からの投資を促進することが極めて重要です。成長ポテンシャルが高い海外市場に活路を求めるというのは、企業にとっては合理的な行動ですが、日本経済全体で見ると、国内への投資が鈍ってしまいます。そこで重要となるのが外国企業による投資、対日投資です。
図表1はGDPに対する海外からの投資(ストック)の割合をOECD諸国で比較したものです。日本の数字は5.2%で、OECD加盟国で最下位となっています。それどころか、データが公表されている201の国・地域中で198位となっています。
海外からの投資を呼び込むことで、資本だけでなく、異質な経営スタイルや戦略、技術、人材なども国内に流入し、新しい化学反応が起こり、イノベーションにつながる可能性があります。日本の社会安定性の高さは世界でも類を見ない魅力的なものです。海外から投資を呼び込み、世界の受け皿となることを目指すべきです。
政府や企業は、海外からの投資を促進するために、投資環境の改善や規制緩和などの取り組みを進めることが求められます。また、人材育成や教育においても、グローバルな視点を持つ人材を育てることが重要です。これにより、企業は国内外の市場で競争力を持ち、持続的な成長が期待できるでしょう。
日本経済を再び成長軌道へ
日本経済が再び成長軌道に戻る——これは決して絵空事ではありません。可能性は私たちの手の中にあり、それを摑むのも私たち次第です。今こそ、現状を直視し、将来の世代が無限の可能性を追求し、幸せな人生を送ることができるような社会を築くために行動を起こさなくてはなりません。
国の未来は、私たち自身の未来です。それを形成するための政策を政治や行政に求めるのも私たちの責任です。今こそ、私たちが真剣に未来を見据え、日本経済の再興に向けた行動を起こすときです。再び成長の道を歩み始める新しい章は、これから始まるのです。
宮本 弘曉
東京都立大学経済経営学部
教授
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