支え合う人が多いほど、カバーできるリスクの範囲は広くなる…国が「社会保障制度」を営むべき納得の理由

支え合う人が多いほど、カバーできるリスクの範囲は広くなる…国が「社会保障制度」を営むべき納得の理由
(画像はイメージです/PIXTA)

バラマキの結果、貧乏くじを引かされるのはやはり若者である。そして、若者が貧乏くじを引く原因となっているのは、バラマキの原資としての社会保障である。ここでは、若者が貧乏くじを引かされないようにするため、少子高齢化時代にふさわしい社会保障制度の在り方を考えてみたい。※本連載は島澤諭氏の著書『教養としての財政問題』(ウェッジ)より一部を抜粋・再編集したものです。

「まさか」に備える社会保障

まず、日本の社会保障制度の概要について押さえておく。日本の社会保障制度は、「社会保険」、「社会福祉」、「公的扶助」、「保健医療・公衆衛生」から成り立っている。

 

「社会保険」とは、私たちが病気やけが、出産、死亡、老齢、障害、失業など生活を送る上で直面するさまざまなリスク(保険事故)に遭遇した場合に一定の給付を行い、私たちの生活を安定させることを目的とした、強制加入の保険制度であり、公的医療保険、公的年金保険、雇用保険、労災保険がある。

 

「社会福祉」とは、障害者、母子家庭など社会生活を送る上で様々なハンディキャップを負っている人々が、そのハンディキャップを克服して安心して社会生活を営めるよう、公的な支援を行う制度であり、保育・児童福祉、母子・寡婦福祉、高齢者福祉、障碍者福祉がある。

 

「公的扶助」とは、生活に困窮する人々に対して最低限度の生活を保障し、自立を助けようとする制度であり、生活保護が対応する。

 

「保健医療・公衆衛生」とは、人々が健康に生活できるよう様々な事項についての予防、衛生のための制度であり、医師その他の医療従事者や病院などが提供する医療サービス、疾病予防、健康づくりなどの保健事業、食品や医薬品の安全性を確保する公衆衛生などがある。

 

なお、社会保険は原則保険加入者が支払う保険料から財源が賄われるが、その他の制度の財源は税金となっている。

「リスクの社会化」こそ社会保障制度

なぜ、国が、社会保障制度を整備しているのだろうか。もしくは、国が社会保障を営む必要はあるのだろうか。

 

今では、民間の保険会社がさまざまな保険商品を販売しているので、国がやらなければならない理由は見当たらないと疑問に思う読者もいることだろう。

 

以下では、社会保障の意義と、国が営む理由を考えてみたい。

 

そのために、まず、次のような仮想世界を考えてみることにする。

 

今、あなたは、誰の力も借りずに、一人で生きている。もし、健康であれば、問題はないだろう。一人で十分生きていける。しかし、不幸にして病気になったり、大けがをしたり、後遺症が残ったら、何より高齢になったら、働くどころか、動けなくなるかもしれない。そうなれば、生きながらえるのは難しくなるだろう。

 

このとき、自分の他に生活をともにする同居人がいれば安心だ。自分が動けなくなっても、同居人が面倒を見てくれるからだ。しかし、自分も同居人もお互いに歳をとって、動けなくなれば、やはり今後の生活が難しくなってしまう。

 

このとき、子どもがいれば、老後の生活は子どもが見てくれるはずなので一安心。これが家族を形成するメリットの一つだ。しかし、家族という単位でも、対処できない場合もある。その場合には、近隣の人や家族の支えがあれば、もっと安心できるだろう。いわゆる共同体だ。

 

このように、一人よりは二人、二人よりは三人と、支えあう人が増えれば増えるほど、カバーできるリスクの範囲は広がっていく。一番大きな共同体は、国であろう。

 

しかし、誰かが働けなくなる度に他の誰かがその者のもとに駆け付けて代わって働いたり、誰かが病気になる度に誰かが看病に行くのは、大きな負担となる。だから、個人でも、家族でも、共同体でも対処できないリスクを、国が、あらかじめ国民からお金を徴収して、リスクが顕在化した者に、そのお金を渡すことでリスクに対処させることを、リスクの社会化と呼ぶ。

 

この「リスクの社会化」こそが、社会保障制度に他ならない。

民間企業の保険では対象外になってしまう人もカバー

さらに、国が、「リスクの社会化」以外に社会保障を営むもう一つの理由は、民間企業に全て任せるだけでは、病気がちな人、いろいろな理由で働けないなどリスクの高い人は、民間企業が提供する保険商品の枠外に弾き出されてしまうからだ。

 

つまり、保険会社といえども、民間企業は営利目的であり、慈善事業はやらないし、やる必要もないから、リスクの高い者にはリスクに見合った高い保険料を課すのが正解ということになる。

 

それとは別に、自分が直面するリスクを過小評価し将来に適切に備えられなかったり、年金などはあまりに遠い将来のこと過ぎて自分事として理解できない者などは、自由意思に任せておいては、民間の保険商品を購入しようとはしないだろう。こうした近視眼的な者も国が運営する社会保障制度に強制的に加入させれば、上手にリスクに対処できるようになる。

 

たしかに、何から何まで国が面倒を見る必要はない。国が全て面倒を見るとなれば、親方日の丸、寄らば大樹の陰。不摂生を続ける者、宵越しの金は持たない者などモラルハザードに陥る者が続出してしまい、国に、いくらお金があっても足りない、大変困った事態になってしまう。国が運営する社会保障制度の対象範囲が膨らめば膨らむほど、あれやこれや理由をつけて税金の無駄遣いへと走る姿が容易に想像できてしまう。

 

だから、国が責任を持って社会保障を運営するにしても、個人や家族に任せるべき範囲、国に任せる範囲、市場(企業)に任せる範囲を、その社会の歴史や文化に応じて、国民が選び、決めていくことになる

 

※ 福祉国家論を専門とするイエスタ・エスピン=アンデルセンは、社会保障を考えるに当たっては、社会保障サービスを生産・供給する主体としての国家だけに着目するのではなく、市場や共同体(家族や地域)もその生産・供給主体であり、これら3つの主体を、それぞれの特徴や機能を踏まえながら、どのように組み合わせていくかという視点が重要であると指摘している。

 

 

島澤 諭
関東学院大学経済学部 教授

 

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※本連載は島澤諭氏の著書『教養としての財政問題』(ウェッジ)より一部を抜粋・再編集したものです。

教養としての財政問題

教養としての財政問題

島澤 諭

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