人口大逆転の影響
人口構造の変化がインフレに影響を与えるという興味深い見解もあります。高齢化が経済に及ぼす影響を考える際、重要な視点のひとつは、貯蓄と投資への影響です。
一般的に、高齢化は消費や投資の低下につながると考えられています。そして、消費が投資よりも早く減少することが予想されており、結果として貯蓄超過が増加し、利子率が低下すると考えられています。
金融政策がこれらの変化を十分に取り込まなければ、インフレ率への持続的な下方圧力がかかることになります。
また、部分的に重複する要素もありますが、別の観点として、人口構造の変化は総需要と総供給に影響を及ぼします。
高齢化により消費が減少し総需要が低下する一方、労働供給の減少により総供給も減少すると考えられます。需要の減少が供給の減少を上回れば、超過供給が生じ、価格は低下します。つまり、インフレ率は低くなります。
高齢化によりさらにインフレが進むという意見も
これらが一般的な見解ですが、高齢化が貯蓄や需給バランスに与える影響が逆になる可能性も指摘されています。
例えば、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの名誉教授チャールズ・グッドハートとマノジ・プラダンは、低出生率と高齢化により、これまでのディスインフレ基調から本格的なインフレと金利上昇時代が到来すると主張しています※3。
※3 チャールズ・グッドハート/マノジ・プラダン著、澁谷浩訳(2022)『人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小』日本経済新聞出版
実際、高齢化とインフレの関係はどうなのでしょうか。データをもとにした研究では、高齢化がデフレにつながっているという結果と、高齢化がインフレにつながっているという結果があり、いまだに両者の関係に確定的な結論は出ていません。さらなる研究が求められていると言えます。
宮本 弘曉
東京都立大学経済経営学部
教授
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