(画像はイメージです/PIXTA)

定年退職後は仕事から離れ、不労所得でのんびり暮らしたいと思う方は多いでしょう。しかし現実的には、年金だけでは生活にゆとりは持ちにくく、シニアから投資家デビューしても、納得のいく収益は上げにくいといえます。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

シニアの投資初心者から寄せられがちな相談

私は大手企業の部長職でしたが、役職定年・定年・再雇用を経て、もうじき65歳で完全リタイアします。老後資金に不安があるので、約2000万円の退職金を元手に投資信託を買い、投資を中心とした生活に切り替えようかと考えています。年間360万円はNISAでインデックス・ファンドを購入し、残りはファンドラップで運用しようと考えているのですが、成功できるでしょうか?

65歳会社員・男性(横浜市在住)

 

公認会計士で税理士、そしてFPでもある筆者の元には、日々シニアの皆さんから多くの老後資金に関する相談が寄せられています。最近は、上記のような相談が目立って増えてきました。

 

定年退職の前後になると、老後資金への不安から「退職金で投資信託等を買って、資産運用しなければ…」などと、気持ちが焦ってくる方もいるのではないでしょうか。

 

ウェブサイトはもちろん、金融機関の店頭にもさまざまな商品の紹介がありますが、日頃から商品について関心を持っていないと、なにを選べばいいか見当がつかないかもしれません。

 

金融商品を購入するなら、筆者がまず最初にお勧めしたいのはNISAです。年間360万円の非課税枠いっぱいまでインデックス・ファンドを購入するのは、資産形成としてメリットがあります。

 

一方で、ファンドラップへの投資はお勧めできません。金融機関の営業担当のトークを聞くと、すぐお金が増えそうな気がするかもしれませんが、手数料が高額であり、メリットは大きくないといえます。それならいっそ、個人向け国債を買ったほうがいいのです。

金融資産のリターンのみに頼るのはリスクが大きい

現実的な話を申し上げると、現役引退後、それなりの金額を継続的に得ようと思うなら、金融資産のリターンのみに頼るのはリスクが大きいといえます。とくに普通のサラリーマンで、投資経験のない方の場合は心配です。それよりも、働いてお金を増やすことをお勧めします。

 

このようにお話しをすると、投資家デビューを思い描いていた方は衝撃を受けるようですが、投資は高いリターンを得ようと思うと、それなりのリスクが伴います。一方、就労すれば、初心者が行う投資より確実な収入アップが期待でき、そのほかの面からも、老後生活を豊かなものにできる可能性があるからです。

 

長年のサラリーマン生活に疲れた方が「早く仕事を忘れたい」「のんびりしたい」と思うのは当然ですし、理解できます。

 

しかし、会社員時代の仕事と、会社を退職したあとの仕事は、まったくの違うものだということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

 

定年後は、年金が受給できます。そして恐らく、それなりの退職金や預貯金が手元にあるはずです。つまり、定年後の仕事は、現役時代のように歯を食いしばって働くものではなく、肩の力を抜いて、好きなこと、あるいはできる範囲の仕事を、ほどほどにすればいいのです。

 

金融商品の運用で、損失を出すことなく毎月20万円を得続けるのは、並大抵ではありません。また、運用状況によっては不安に苛まれることもあるでしょう。

 

しかし、そのような不安を抱えることなく、楽しみや生きがいとなる仕事ができれば、幸せな老後生活が待っています。

老後の三大不安「お金・健康・孤独」にどう対処すればいい?

また、働くことは「お金」の課題を解決するばかりではありません。お金に加え「健康」「孤独」という「老後の三大不安」の解消につながります。

 

就労するには、多かれ少なかれ体を動かして、人とかかわる必要があります。通勤するだけでも一定の運動になりますし、人とコミュニケーションすることで、認知能力の維持も可能となります。何より、社会とのつながりを持つことで、孤独からも解放されます。つまり、働かずにずっと家にこもっているより「健康」な状態を保つことができるのです。

 

大手企業の会社員や公務員だった人なら、毎月15万円から20万円の厚生年金を終身で受けとることができるので、最低限の日常生活に行き詰まることはないでしょう。

 

しかし、気ままに旅行に出かけたり、ちょっとおいしいものを食べたり…といった「人生のゆとり」を楽しむには、年金だけでは十分とはいえません。そここに仕事をして報酬を得るというプラスアルファが加われば、グッと選択肢が増えてきます。

 

筆者も多くのシニアの方のご相談に乗っていますが、実は一番厄介だといえるのが「孤独」なのです。健康やお金はだれもが意識していることですが、会社を辞めたあとにどれほど大きな孤独が襲いかかってくるのか、現役時代にイメージできる人は多くはありません。

 

女性の場合は、家庭や勤務先以外にもコミュニティを持っている方が多く、定年後もアクティブに人と交流されているのですが、いまのアラカン世代の男性はまだ、会社一筋で家庭も奥さんに任せっぱなし…という方が多く、会社を退職した途端、ほとんどの人とのつながりが切れてしまう、というケースが多く見られます。

 

しかし、仕事をすれば人とのつながりが維持でき、孤独を回避することができるのです。

 

「仕事はもううんざり…」と思っている方は「遊ぶお金を稼ぐために働く」と考えてみてください。普通に生活していくための日常生活費だけなら、先述した通り公的年金でカバーできるでしょう。

 

しかしそれだけでなく、ちょっとした贅沢や遊びを楽しむのなら、そのぶんだけ、少し働いてみるのはどうでしょうか。

まず軽いアルバイトを、もっと稼げるなら、年金受給の繰り下げを

なかには、65歳過ぎてどれくらい稼ぐことができるのか、あるいは、どれだけ稼げばいいのか不安に思う方もいることでしょう。しかし、あくまでも定年後の仕事です。現役時代のように稼ぐ必要はありません。あくまでも目的は心身の健康維持と遊ぶ費用のためなのですから、収入は少なくてもよいのです。

 

アルバイトで月10万円、年収120万円ぐらいなら、無理なく稼げるのではないでしょうか? 夫婦それぞれが月に10万円を稼げたら、月に20万円、年間で240万円ほどの収入になります。年間120万円を稼げるなら、70歳まで5年間働くと600万円、10年働くと1,000万円以上です。

 

老後資金の不安を解消するには、就労するのがいちばん手っ取り早いといえるでしょう。

 

さらに、年金を受給しながら就労するより、もっとお金を増やす方法があります。それは公的年金の繰下げ受給の制度の活用です。

 

公的年金の繰下げ受給制度は、65歳からの公的年金の支給開始を自主的に遅らせることで年金が増加できる制度で、受給を1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ受給額が増えていきます。仮に70歳から受け取り始めると、増額幅は42%となり、それが一生涯続きます。

 

もちろん、年金の受給開始を遅らせるなら、その分の生活費が必要です。しかし、現役時代に培った技能をもとに仕事を得たり、起業するなどして現役時代以上の収入を得ているシニアもいます。もし、現役時代に近いか、それ以上の収入が得られる場合は、繰り下げ受給も検討してみてはいかがでしょうか。

 

ただし、シニアは健康については十分な注意を払う必要があります。医療や介護の出費を想定しつつ、iDeCoやNISAを活用し、抜かりない資産形成を行うことをお勧めします。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

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