年齢を重ねた親…子世帯と同居か、それとも高齢者施設か
「おひとり様」高齢者の増加が止まらない。厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は全世帯の50.6%で、2,747.4万世帯にものぼる。内訳だが、1人暮らしは873.0万世帯、夫婦のみの世帯は882.1万世帯、親と未婚の子のみの世帯は551.4万世帯、三世代世帯は194.7万世帯となっている。
いまから10年前の2013年調査では、「おひとり様」は573.0万世帯だった。さらにさかのぼり、およそ20年の2001年調査では317.9万世帯、およそ30年前の1992年調査では186.5万世帯という数値から、ここ30年の間に4倍以上に増加していることがわかる。
昭和時代は3世代同居も珍しくなかったが、最近では少子化のうえ、共働き世帯が当たり前となり、高齢の親のケアに手を尽くせる子世代は減少している。
子どもに面倒をかけたくないという思いから、同居の誘いを遠慮する親もいる一方で、子世帯との同居を当然として、強く希望する親もいるなど、さまざまだ。
実際のところ、年齢を重ねれば介護リスクは高くなり、要支援・要介護率は75歳を境に急増する。80代前半では4人に1人が、80代後半になると2人に1人が支援・介護が必要になるといわれている。
前出の調査によると、要介護者における「介護が必要になった理由」の1位は「認知症」で23.6%となっている。2位は「脳血管疾患(脳卒中)で19.0%、第3位は「骨折・転倒」で13.0%と続く。
年齢を重ねて体の自由が利かなくなれば、日常生活を送ることにも不安が大きくなっていく。子世帯との同居を考える人も多いと思うが、一方で、老人ホームへの入居という選択肢もある。
要介護でなくても入居が可能で、生活の自由度が高い施設に「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)がある。ここでは、安否確認や生活動産のサービスを受けることができるほか、在宅介護サービスを併設した介護対応のところも増えている。
このような環境の施設なら、老人ホームに抵抗がある高齢者でも入居へのハードルはぐっと下がるだろう。
同居で関係が悪化した妻と母、全財産を処分して施設入所も…
厚生労働省によると、遺族年金の平均受給額は月8万円程度。夫を亡くした高齢の妻の場合は、それに自身の国民年金がプラスされ、月額14万円程度の年金を受け取っていると考えられる。
また、国土交通省の資料によると、サービス付き高齢者住宅の入居費用は、家賃、共益費、サービス費を合計して平均11万円程度。大都市圏の場合はプラス1.5万~2万円程度かかってくる。
このことから、夫を亡くした高齢女性の場合、ギリギリではあるが、年金で平均的なサ高住への入居は実現できる可能性が高い。
しかし、施設に入居すれば安心…とはいい切れないようだ。
50代の会社員・伊藤さんは唇をかむ。
「母は〈子どもが親の面倒を見るのは当たり前〉という考えで、私の妻ともずいぶんぶつかりました」
伊藤さんの家庭は共働きで、子ども2人を保育園に預け、2馬力で頑張っていた。そのようななか、子どもたちが体調を崩すたび、伊藤さんの母親がサポート役に回ってくれた。
「助かったのは本当です。しかし、世話になったぶん、〈同居〉を持ち掛けられたら断れなくて…。父が亡くなったあと、母があまりに寂しがるので、なし崩し的に郊外の実家で同居を開始したのですが、あまりにわれわれの生活に干渉するため、妻とぶつかることも増えてきました」
そして、伊藤さんの妻と母親の関係は悪化するばかりに。
「子どもたちも独立しましたし、お互いストレスを抱えてはよくありません。自宅を処分して母をサ高住に入れ、われわれは賃貸に引っ越そう、という話になったのです」
話し合いを重ね、伊藤さんの母親も同意した。その後、母親名義だった自宅を売却し、母親自身の預貯金と合わせ、かなり贅沢な施設へと引っ越していった。
「ところが1年後、母親から連絡があり〈施設を退所したい〉というのです。言葉を失いましたよ…」
伊藤さんの母親は、施設にいる人たちとまったく話がかみ合わず、孤立してしまった。周囲の人たちはかなり裕福で、話のレベルが合わないのだという。
「施設入所のために大金を費やしたのに、たった1年で退所ですよ…。〈帰ってきちゃった〉といわれた日には、顔面蒼白です」
「私はひとりっ子なので、母はほかに行き先がありません。しかし、入れ替わりで妻が出て行ってしまいました」
伊藤さんは母親を新たな施設に入れるべく奔走しているとのことだが、母親はひとり息子のそばが快適なのか、あまり乗り気ではないという。
「母がいる家には、妻は帰る気がないそうです」
老人ホーム選びも住まい探しと同じく、慎重さが求められる。決断を焦ればあとから後悔することになりかねず、コスト面で無理をすれば行き詰ってしまう。
立派な施設だからといってだれにとっても快適というわけではない。また、今後の人生がどれほど続くかはだれにもわからない。高齢者施設への入所は、その場の勢いで決めることなく、しっかりとしたリサーチが重要なのだ。
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