定年直前、長年連れ添った妻から突然の離婚宣告
現在68歳のAさんは、大学卒業後、食品会社を経て化学系の大手企業で工場長を務めながら長年製造の現場に携わってきました。2人の息子が巣立ったあとは長年連れ添った妻と2人暮らし。取引先との付き合いを優先し出張も多く、多忙な毎日を送っていたAさんでしたが、常務取締役を経て65歳で定年退職をしました。
そんなAさんに転機が訪れたのは、定年退職を間近に控えた4年前のある日のこと。突然、妻から離婚を切り出されたのです。
もともと亭主関白で、妻の着る物や化粧の仕方にも口を出していたAさんは、あらゆる妻の選択を、自分を中心として考えていました。妻から離婚を切り出されると同時に告げられたのは「これからは自由になりたい」という言葉。どうやら、愛想をつかされてしまったようです。
離婚後は資産が激減
夫婦2人の月の年金見込み額は約34万円、資産は1億円でした。しかし離婚調停を行った結果、もともと月27万円あったAさんご自身の年金はおよそ3割の減額。退職金を含め、資産は分割後も5,000万円あったものの、マイホームは妻に渡すことになり、住む場所には困りました。
しばらくはマンスリーマンションに住んでいたAさんでしたが、居心地の悪さと更新の煩わしさから、「資産も年金もあるのだから、家を購入してもいいだろう」と、特に深くは考えず中古マンションを購入します。中古マンション取得時に支払った金額はおよそ3,500万円です。
引越し費用などの出費とあわせて、離婚した寂しさから出歩くことも多く、気づけばAさんの資産残高は1,000万円ほどに減ってしまっていました。 ふとAさんの頭によぎったのは「老後2,000万円問題」です。独り身とはいえ、このままで大丈夫なのだろうか、と。
婚姻期間中の厚生年金記録をわける「年金分割制度」
公的年金制度には、夫婦が離婚したときに婚姻期間中の厚生年金保険の保険料納付記録を当事者間で分割できる制度があります。これを年金分割制度といいます。年金分割制度には「合意分割制度」と「3号分割制度」がありますが、Aさんが利用したのは合意分割制度でした。
合意分割制度では、婚姻期間中の夫婦の厚生年金保険の保険料納付記録を、2分の1を上限に分割割合を協議し、分割請求を行います(※年金分割制度はいずれも原則として2年の分割請求期限があります)。
分割請求の結果、必ず厚生年金記録の分割を受け取れるとは限りませんが、Aさんの場合、妻は結婚後ずっと専業主婦で、これまでの人生の多くをともに過ごしてきました。婚姻期間中の厚生年金記録を半分分割することとなった結果、Aさんの年金額は当初は月およそ27万円ありましたが、およそ3割減り、年金額は18万円弱に、手取りでは月15万円ほどとなりました。
離婚後の予想外の支出
これまで仕事に専念してきたAさんは、家計管理を妻に任せっぱなしにしていました。家計管理なぞ、単純な足し算引き算かけ算でできるのだから、簡単だろうと考えていたAさんでしたが、実際に自分でやってみて、やっかいさに直面します。
なかでも特に複雑な思いをもったのは住まいに関連した定期的な支出です。マンションを持ち家とする場合、毎月修繕積立金や管理費、駐車場代などさまざまな費用がかかります。Aさんが離婚前の自宅は一戸建てだったため、マンション住まいは独身時代以来のことでした。
たとえば、Aさんの場合であれば、これらの住まいに関連する支出を合わせると毎月およそ3万円になりました。Aさんにとってこれらの支出は予想外でした。
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