(※写真はイメージです/PIXTA)

徐々に認知度が高まってきた年金の「繰下げ受給制度」。本来の受給開始年齢である65歳より受給開始を遅らせることで年金受給額を増やすことができるというものですが、「ある条件」に当てはまる人には注意が必要だと、株式会社よこはまライフプランニングの代表取締役、井内義典CFPはいいます。自らの“思い込み”から年金をもらい忘れたAさんの事例を交えて「年金繰下げ受給制度」の注意点をみていきましょう。

70歳になったし…満を持して年金事務所に行った結果

1つ年上の妻と暮らすAさん(70歳)。60歳で定年を迎えたあとも、給与は大幅に下がったものの、同じ職場で嘱託職員として10年働きました。このたび、2023年9月に70歳となったAさんは、ついに会社を退職しました。

 

年金は繰り下げて受給すれば増える」という情報を知っていたAさんは、「働いているあいだは給与収入で生活できるし、年金はいらない」と考え、年金の手続きを一切していませんでした。

 

11月に入り、Aさんは初めて年金事務所に行き、受給の手続きを行いました。老齢基礎年金と老齢厚生年金を70歳2ヵ月から繰下げ受給することで、月25万円もらえることになりそうです。

 

しかし、窓口で予想もしていなかった事実を告げられました。なんと、受け取れるはずだった4年分の年金が受け取れないというのです。いったいどういうことなのでしょうか。

 

徐々に周知されてきた「年金繰下げ受給制度」

通常、年金は65歳から受給できますが、受給開始を遅らせることで年金の額を増やすことができます。これが「繰下げ受給制度」です。1ヵ月繰下げるごとに0.7%増額できます。

 

2021年度のデータをみると、繰下げ受給率(繰下げ受給をしている人の割合)は、老齢厚生年金が1.2%※1、老齢基礎年金が1.8%※2となっています。

※1、2 厚生労働省「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より。※2は1986年3月以前の旧法の年金も含んだ数字となります。

 

それぞれの受給者全体からするとまだまだ少ない数字ですが、「ねんきん定期便」などで繰下げ受給制度の存在が周知されつつあります。また、65歳以降も働く人を中心に、繰下げ受給する人、検討する人が徐々に増えているのもまた事実です。

 

60歳台前半の年金に繰下げはない

年金事務所の窓口で突然、「受け取れない年金があります」と言われたAさん。

 

状況がよく飲み込めませんでしたが、職員は「年金には5年の時効があります。Aさんは65歳まで4年分年金が受け取れたはずですが、すべて時効が過ぎてしまっています」と言います。

 

時効消滅により、本来受け取れたはずの年金が受け取れなくなっているというのです。

 

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※プライバシー保護の観点から、実際の相談者および相談内容を一部変更しています。
<参考>
・厚生労働省「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
(https://www.mhlw.go.jp/content/001027360.pdf)

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