「良いインフレ」と「悪いインフレ」の違い
総需要・総供給曲線を用いることで、インフレの発生理由を分析することができます。インフレは、総需要曲線が右にシフトするか、総供給曲線が左にシフトすることで発生します。はじめに、総需要曲線が右にシフトする場合を考えてみましょう。
図表1のように、総需要曲線が右にシフトすると、均衡点は右上に移動します(点E0から点E1に移動します)。つまり、物価が上がり、財やサービスの取引量が増えることがわかります。このように、総需要曲線が右にシフトすることで生じるインフレを「ディマンドプル・インフレーション」といいます。
総需要曲線が右にシフトするということは、総需要が増加したということです。つまり、商品やサービスを求める人が増えるため、物価が上昇し、取引量が増加します。需要が引っ張ることによって物価が上がるので、ディマンドプル・インフレーションと呼ぶのです。
総供給曲線が右にシフトすると「良いインフレ」に
総需要の増加は様々な要因によって生じるので、ひと口にディマンドプル・インフレーションといってもその原因はいろいろです。
例えば、景気が良くなり、経済で総需要が拡大すれば、インフレになります。景気が良くなると商品の価格が上がり、景気が悪くなると下がるというのは、多くの方の感覚に合うのではないでしょうか。
インフレは、モノやサービスの価格が上がっていくことなので、決して良いことではありませんが、景気が良くなるため、ディマンドプル・インフレーションは「良いインフレ」といわれることがあります。
また、政府支出が増えると、経済の総需要が増えるので、やはり総需要曲線は右にシフトします。その結果、経済活動の水準は上昇し、物価も上がります。つまり、景気対策としての財政政策はインフレを生じさせます。
経済学では、経済全体のお金の量(貨幣供給量)が総需要を変化させる重要な要因だと考えられています。これは「貨幣数量説」と呼ばれるもので、生産能力の拡大以上に貨幣供給量が増えると、物価が上昇し、インフレになるというものです。
貨幣供給量は、中央銀行が基本的にコントロールすることができるので、この考え方に基づくと、金融政策が物価に影響を与えることになります。
総供給曲線が左にシフトすると「悪いインフレ」に
インフレは総供給曲線のシフトによっても発生します。総供給曲線が左にシフトしたとしましょう。
図表2からわかるように、均衡は点E0から点E1へ移動します。つまり、経済全体の財やサービスの取引量は低下し、物価が上昇します。
総供給曲線が左にシフトして起こるインフレを、「コストプッシュ・インフレーション」といいます。インフレが発生したという点では、ディマンドプル・インフレーションと同じですが、財やサービスの取引量が減っているという点が大きく異なります。
何が、総供給曲線を左にシフトさせるのでしょうか? 一言でいえば、企業が生産に行う際に必要となるコストの上昇です。原材料費や賃金の上昇などが考えられます。
コストが上がって、インフレになるので、コストプッシュ・インフレーションと呼ばれます。原材料や資源を供給する企業が価格を引き上げたり、人手不足で賃金が高騰した場合に発生します。
図表2からもわかるように、コストプッシュ・インフレーションはGDPの減少を伴うため、「悪いインフレ」といわれることがあります。
インフレ期待も重要
総需要と総供給のバランスだけではなく、「インフレ期待」も物価に影響を与える重要なファクターであると考えられています。インフレ期待とは、企業や個人が予想する将来の物価のことであり、その期待が、経済取引や意思決定に影響を与えます。
例えば、ある銀行が破綻することが予想され、恐怖心を抱いた預金者たちが一斉に預金を引き出すと、その銀行は実際に破綻する可能性が高くなります。同様に、インフレ期待が高まると、実際にインフレが発生することがあります。
期待インフレは、実際の物価や景気に影響を与えると考えられているため、世界の中央銀行の多くは金融政策の方向性を決定する際に、期待インフレ率の動向に注目しています。
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