赤ん坊を置いて逃亡…激怒する妻に芥川がこぼした「ひと言」
さすがは頼りになる一家の大黒柱……と思いきや、文は信じられない光景を目にする。芥川は全力で門のほうへひとり走りだしたのだ。2階に赤ちゃんがいるんですけど!
妻の文は、脱兎のごとく階段をかけのぼると、寝ていた次男の多加志を抱きかかえる。慌てて、右脇に子どもをかかえて階段を降りようとするが、家具がバタバタと容赦なく倒れかかってくる。しかも、不運なことに、階段の上に障子をはずしてまとめてあった。それが、落ちてきて階段をふさごうとしていた。
緊迫した当時の状況を妻はこう振り返っている。「気ばかりあせってくるし、子どもをまず安全なところへ連れ出さねばと、出ました」
なんとか外に出ると、そこには長男を抱いた舅の姿があった。文が2階に行っている間に、芥川の父は長男をかかえて、いち早く外に脱出していたのである。
よかった……そう安堵すると同時に、文にはいいようのない感情がこみあげてきた。無論、真っ先に逃げ出した夫・芥川龍之介に対する怒りである。「赤ん坊が寝ているのを知っていて、自分ばかり先に逃げるとは、どんな考えですか!」
夫のあまりの身勝手さに文がそう詰め寄ると、芥川はひっそりとこう言った。
「人間最後になると自分のことしか考えないものだ」
いや、まあ、そりゃそうかもしれないけどさ……。
まったく言い訳しないのが、清々しいくらいである。ヤバいと思った瞬間に体が自然と動いてしまったのかもしれない。
その後、芥川は大八車をどこからか借りてきて、青物市場へ。「食糧難が一番こわい」とカボチャやジャガイモを買い込んでいる。食糧調達で汚名返上できたかどうか、定かではない。
真山 知幸
著述家、偉人研究家
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