Aさんが「100歳を超えても利用可能」な施設の予算
筆者は、Bさんが希望するAさんの貯蓄を取崩しながら、100歳以上まで入居できる施設の入居一時金と毎月の利用料額を算出することにしました。
- 今後介護が必要になった時の費用
- 入居金の返金額
- 新しい施設の費用
1.今後介護が必要になった時の費用
生命保険文化センターの調査※によると、公的介護保険サービスの自己負担費用を含めた毎月の平均介護費用は8.3万円。平均介護期間は5年1ヵ月となっています。そこで、今後Aさんが介護の状態になった時を想定して500万円、費用の値上がりも考慮して600万円準備しておきます。
※ 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021(令和3)年度。
2.入居金の返金額
Aさんは現在の施設の入居一時金1,800万円は、初期償却率20%、償却期間5年間(60月)の契約で入居しました。退居時の返還金は次の通り計算します。
Aさんが入居後半年(6ヵ月)で退居するなら、未払の月額利用料や個室の修繕費用を支払い、返還金は約1,250万円になります。
3.新しい施設の費用
そこで、入居一時金が1,000万円前後、毎月の利用料は別途費用も含め28万円までの施設を探せば、Aさんが100歳の時に介護費用分600万円とは別に貯蓄を1,000万円ほど残しておけます。
Bさんは「自分の家はAさんと同居できる間取りではなく、姉は夫の両親と同居している。妹は夫の転勤で引越すので、やはり母は老人ホームでの生活がいい。自分で該当する施設を探してみる」と言い、その日は帰って行きました。
Bさんの決断を受入れたAさん
数日後、Bさんから「候補の有料老人ホームをいくつか見つけた」と筆者のところに連絡がありました。また筆者も、該当施設に直接に問い合わせるなどして施設に支払う費用を確認しました。
どの施設も、Aさんが現在入居している施設よりこじんまりとして、プールなどはなくすべての催しは食堂で行われるようで、毎月の支払いは追加の費用を含めても28万円以内に納まりそうです。
Bさんは事情を姉妹に話し、ひとりでAさんに会いに行きました。
Aさんは、「先週は歌手の○○さんのディナーショーがあったし、来週は□□□喜劇で△△が来るよ」とニコニコして話してくれます。
Bさんは、意を決して話しました。
「ごめん母さん、この施設が気に入っているだろうから心苦しいんだけれど……、やっぱり引っ越してくれないか」
そして筆者が作成した資料を説明したそうです。Aさんはあっけにとられたような、そしてしょんぼりとしていたそうです。
数日後、Aさんから「引越し先の施設を見に行きたい」と連絡を受けたBさんは、仕事を休みAさんと施設の見学に行き、そのうちのひとつにへの転居が決まりました。
AさんはBさんに「半年だけだったけれど、夢みたいな時間を過ごせて楽しかったよ。お父さんが働いたお金で、私だけが贅沢をしてはいけないからね」と吹っ切れたように笑っていたそうです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員