「ナンバー2を育てよう」とはしていなかった
ここまで読んで、察しのいい読者の方はお気づきだと思いますが、A社は「社長のナンバー2を育てよう」とはまったくしていませんでした。
「ナンバー2」というのは非常に曖昧な言葉です。どんな役割、責任を負うのかが明確ではありません。この曖昧さがほとんどの会社でナンバー2育成に失敗する原因となっています。
役割が曖昧なまま「ミニ社長」としてのナンバー2を育てようとすると、多くの場合、失敗します。筆者は、候補者が社長の顔色をうかがうだけの存在になってしまったり、指示命令系統が複雑になってしまったりしたケースを数多く見てきました。
筆者は、A社の社長にそれを何度も伝えました。漠然と「ナンバー2を育てよう」とするのではなく、「役割・責任」を明確にし、それを全うするのに徹してもらうことが重要なのです。
そこでA社には、まず「経営チーム」を結成し、大きい会社になっても耐えられる経営の仕組みづくりに着手してもらいました。次に、できあがった仕組みをつかさどり、運営するポジション(「インテグレーター」と呼びます)を設定し、そのポジションの役割と責任を定義しました。
インテグレーターは仕組みを回し、短期の経営目標、売上と利益目標を達成するのが仕事です。それがはっきり分かっていれば、その役割と責任を果たせるように育成すればいい。育成の内容も明確になります。
Iさんには半年間、インテグレーターとしてのトレーニングを徹底的に受けてもらったのです。
インテグレーターが誕生したら、創業社長は、以後はその仕事をしなくてよくなります。その代わり、「ビジョナリー」という、会社の5年後や10年後といった遠い将来の姿や大きな課題の解決、カルチャーの強化といった役割と責任を担い、そこに集中することができます。
そして、ビジョナリーとインテグレーターがそれぞれの役割をきっちり果たすと、会社はすごい勢いで成長していくのです。
重要なのは、「社長とナンバー2」ではなく、「ビジョナリーとインテグレーター」がいることなのです。
「ビジョナリー」と「インテグレーター」の違いとは?
「ビジョナリー」と「インテグレーター」について整理しておきましょう。両者とも「社長」と聞いてイメージするような仕事をしていますが、役割が明確に違います。
整理すると、以下のようになります(代表的な例であり、個別の企業ごとに細部は違いがあります)。
【ビジョナリーの役割・責任と特徴】
・新たなアイデア、将来をつくるアイデアを考える
・大きな問題を解決する
・影響力のあるコネクションをつくる
・組織のカルチャーを醸成する
・研究・開発を行う
・感情、感性的に行動する
【インテグレーターの役割・責任と特徴】
・LMA(部下の育成(Lead)・指導(Manage)・管理(Accountability))
・短期の経営目標の達成のため行動する
・日常的な課題の解決のため行動する
・プロセス改革・改善のため行動する
・論理的、理性的に行動する
いかがでしょうか。ビジョナリーとインテグレーターの違いについてイメージがつかめたでしょうか。
「両方の仕事をやってるよ!」という社長さんも多いと思います。もちろんそういう超人レベルの経営者もいますが、両方を同時に、十分なレベルでこなせる人はそう多くはありません。
というのも、創業社長の多くは「ビジョナリー型」経営者だからです。新しいことを始めたい、市場で満たされてないニーズを発見したのでそこに参入する、等の理由で事業を始めた人が多く、それはまさにビジョナリーの考え方だからです。
ビジョナリー型経営者の多くは創業当初はインテグレーター的な仕事も「仕方なく」こなします。有能だからできてしまうのです。しかしあまり好きではないインテグレーター的仕事を我慢してやっていると「経営は大変だ」「オレには会社を大きくできない」と感じてしまい、それ以上の成長を諦めてしまうケースがあります。それはあまりにもったいない。
そんなタイミングで「ナンバー2を育成しよう」と考えるようになることが多いのです。しかし、「ビジョナリー」と「インテグレーター」の関係を押さえていないと、失敗する可能性が高くなってしまいます。
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