貯蓄4,000万円・元エリートの70歳、唯一の気がかりは…
木下浩二(仮名)さんは、元大手企業の部長としてキャリアを重ね、65歳で定年を迎えてからも優雅な老後生活を送っている70歳男性です。公的年金は妻の恵子(仮名)さんの分と合わせて毎月32万円程度、預金や生命保険で若いころから積み立てた資産が現状でも総額4,000万円程度あり、比較的余裕のある経済的状況といえます。
「息子がニートなんです」
木下さんには大きな不安があります。34歳の息子・浩志(仮名)さんの存在です。浩志さんは大学を卒業後に大手商社に入社しましたが、職場での人間関係が上手くいかずに退職。その後派遣社員として仕事に復帰するも、先輩や同僚とコミュニケーションを取るのが苦手で離職を繰り返し、職に就くことなく自室に引きこもるようになってしまったのです。
木下さんの年金収入が多いとはいえ、浩志さんの生活費も夫婦の年金収入から支払っているため負担は大きく、退職から5年で500万円程度減っています。引きこもりで掛かる生活費はさほど多くはありませんが、浩志さんに代わって払っている公的年金と国民健康保険料には毎月5万円程度掛かっており、家計から毎月8万円~9万円程度のマイナスがある状況です。
いまはまだ余裕があっても、このペースで減っていくと、今後自分達が介護が必要になった場合や、自分が亡くなって妻の恵子さんと浩志さんだけになったときに不足するようなことはないかと、浩志さんの将来への不安とともに、収入のない浩志さんの生活費を自分達が支払い続けることへの不安を感じていたのでした。
34歳・引きこもりニート…親亡き後の浩志さんの生活は?
そして、木下さんにとっての大きな問題は親亡き後の浩志さんの生活です。木下さんもいずれはこの世を去ることになります。妻の恵子さんよりも先に亡くなった場合には、遺族厚生年金が妻の恵子さんに支払われることになりますが、年金収入は現状より10万円程度減少する見込みです。貯蓄が減るペースは早まり、両親ともにこの世を去ると、浩志さんは両親の年金収入を失うことになります。
また、浩志さんは20代半ばで無職になったため、将来会社員に比べて公的年金の金額が少ないのです。会社員として勤務していれば厚生年金に加入しますが、浩志さんは派遣社員の時代も含め4年程度しか厚生年金の加入期間がありませんので、上乗せはほとんどありません。
そのため、仮に浩志さんが無職のまま60歳を迎えた場合、65歳から受け取ることができる公的年金は月額にすると手取りで6.5万円程度になり、将来的に貧困状態となることが予想されます。
このような問題は木下さんの家族だけではありません。内閣府が2022年11月に行った調査によると、「引きこもり」の人は15~64歳の中で2%にあたる146万人にもなるとされています。
木下さんのケースでは現状においてはまだ経済的にゆとりがあるほうではありますが、年金収入が少なく高齢の親が引きこもりの子供の生活費を払うために仕事を続けているというケースも少なくはなく、自分達の老後の備えもほとんどできていない状況で引きこもりになった子供の面倒までみなければならないといったことも起きています。
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