東京五輪開催までに14軒の開業を予定する「アパホテル」
訪日客の増加で新しいホテルシーンが生まれているが、外国人旅行者のボリュームゾーンは、ビジネスホテルや宿泊特化型ホテルにある。シティホテルやゲストハウスなどのエコノミー系に比べても、物件数や客室数が多く、外国客からみれば日本のホテル価格の相場観とみなされているのだ。
宿泊特化型ホテルの中でも、都心への出店攻勢で目立っているのがアパホテルだ。2016年5月現在、新宿地区に新宿御苑前店(411室)、東新宿歌舞伎町店(165室)、東新宿駅前店(122室)、そして同グループの旗艦店といえる新宿歌舞伎町タワー店(620室)が開業。日本最大の歓楽街、歌舞伎町の中心に位置している。
同グループが出店しているのは、新宿だけではない。都内に約30軒のホテルが営業中で、東京五輪開催の20年までに14軒の開業が予定されている。
好立地に出店し、急増する訪日外国人の支持を得る狙い
こうした意欲的な出店攻勢は、10年に同グループが発表した中期5か年計画「SUMMIT5‐Ⅱ(第二次頂上戦略)」の中で描かれていたものだ。同グループがこれほどのスピードで都心に出店攻勢をかける背景に、急増する訪日外国人マーケットがある。
アパグループの元谷外志雄会長は独自の出店戦略についてこう語る。
「新宿は知名度、ブランド力ともに世界的だ。アジア客と欧米客の割合は半々で、アジア系は主に台湾やシンガポール、香港など。新宿以外でも、渋谷道玄坂店や銀座では欧米客が多い。基本的に、都心では団体客は入れていない。単価の高い個人客のみ。なぜなら、東京は高稼働率が続いているからだ」
「最近では大阪も同様だ。西日本も金沢が新幹線効果で稼働率が上がってきた。東京一点集中から地方中核都市へと勢いは広がっている」
外国客の予約はほぼネット経由。都内の出店数が多いため、ネット上でも知名度が上がったという。では、外国客にとって同ホテルの魅力は何か。
「ひとことで言えば、効率性。シティホテルに比べると、炭酸ガスの排出が3分の1。なぜそれが可能かというと、風呂は節水型の卵型浴槽で20%の節水効果がある。サーモスタッドによる定量止水栓は一定量お湯がたまると止まるしくみだ。断熱カーテンで冷暖房の効率を高め、全館LEDで電気代を減らす。これは経費削減につながっている」
元谷会長は同グループの目指すべきテーマを「高品質」「高機能」「環境対応型」と説明する。そして、経営にとって最も重要なのは立地だという。
「何より地下鉄駅徒歩2〜3分に立地していることが大きい。ホテルは立地産業だ。いい立地を選び、リーズナブルな価格で提供すればうまくいく。『APA』というネーミングは外国人にもわかりやすい」
従来のシティホテルに付きものだった料飲部門をそぎ落とし、客室の付加価値を追求する「宿泊特化」業態は、コンパクトなスペースながら満足度を高める客室設計とIT化を進めることが特徴だ。
アパグループはこの特徴を存分に活かしてきたが、これは日本国内の利用者はもちろん、外国客のニーズに沿ったものだったといえるだろう。