今回は、「ビジネスホテル」が外国客の人気を集める理由を見ていきます。※本連載は、インバウンド評論家、フリーエディターとして活躍する中村正人氏の著書、『ホテル業界大研究』(産学社)の中から一部を抜粋し、活性化するホテル業界の最新事情を紹介します。

手頃な価格帯と便利な立地で、団体客にも好評

日本のホテル業界は高級化と低価格化に二極化している。低価格化の極が、宿泊特化型ホテルである。リーズナブルな価格設定にもかかわらず、シティホテルと変わらない内装や設備とサービスを誇る宿泊特化型チェーンは、海外の個人客だけでなく、団体客のニーズにも合っている。

 

宿泊特化型ホテルは日本特有の形態であるビジネスホテルの進化系だ。もともと高度経済成長によるビジネス出張の急増に伴い、1960年代後半頃から出張客を対象とした料金の手頃な中級ホテルの需要が急増した。そこで生まれたのが、「ビジネスホテル」(和製英語。欧米にはない)だった。

 

80年代にはビジネスホテルのチェーン化が進んだ。ワシントンホテル、東急イン、サンルートなどが代表的だ。その後バブル崩壊を迎え、さらなる低価格化が進むなか、90年代の後半から新しい動きとして全国各地に登場し、チェーン展開していったのが「宿泊特化型ホテル」である。

 

宿泊特化型ホテルビジネスの特徴は、90%以上が室料収入であることだ。そのぶん人件費を抑えるため、少人数でオペレーションを行う。だが、それが顧客のニーズに合致していた。このビジネスを成立させるために何より重要なのは、初期投資をいかに少なくし、運営コストを抑えるかである。

ビジネスホテルチェーンは「都会への進出」を加速

ここ数年、全国展開する宿泊特化型のホテルチェーンが都心に続々進出している。たとえば、東新宿にはアパホテルがすでに4軒開業しているが、これは新宿地区に限った話ではない。

 

共立メンテナンスは15年4月外国客に人気の上野御徒町に「ドーミイン」を開業。またダイワロイヤルは17年春に東京五輪会場に近い有明エリアにビジネスホテル「ダイワロイネット」を開業する予定だ。

 

これらのホテルチェーンは、地方ではアジアからの団体客の受け皿となっていたが、客室需給の逼迫する大都市圏では個人客の動線に合わせた立地を意識した出店となっている。

「長期滞在向け」の新たな宿泊形態も誕生

外客向けの新しい宿泊形態も登場している。ホテルのようなサービスを受けながら長期滞在できるサービス賃貸(高級サービスアパートメント)だ。家具や家電製品は備え付けで、ホテルに比べて割安な料金で毎日の清掃やリネン交換などのサービスが受けられる。

 

宿泊日数などにもよるが、敷金や礼金が不要で煩わしい手続きがない点も人気の理由だ。コンシェルジュサービスを提供する施設も多い。

 

東急リロケーションは16年春に部屋に乾燥機やミニキッチンを備える中長期滞在用の「東急ステイ銀座」を開業。グローバル企業で働くビジネスマンや観光客などの取り込みを図る。

 

サービス付き賃貸は、海外駐在や長期出張の経験のある人なら利用したことがあるだろう。アジアの主要都市では、ホテルに併設されるケースが多い。日本は海外に比べ普及が遅れていたが、今後は増えていくことだろう。

 

17年にはシンガポールのリゾートホテルチェーンのバンヤンツリーがサービスアパートメントの進出を予定している。

 

[図表]日本のホテル業界の二極化

ホテル業界大研究

ホテル業界大研究

中村 正人

産学社

訪日外国人旅行者の急増、外資系ホテルの日本進出…新業態ホテルも続々登場し、活性化を加速するホテル業界。 数々の話題やトレンド、ビジネスの最新動向など業界のことがもっともよくわかる書籍となっています!

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