今回は、「外国客のニーズ」を意識したホテルの例を見ていきましょう。※本連載は、インバウンド評論家、フリーエディターとして活躍する中村正人氏の著書、『ホテル業界大研究』(産学社)の中から一部を抜粋し、活性化するホテル業界の最新事情を紹介します。

特定の地域に集まりつつある「外国客向けホテル」

これまでの連載で述べた高級外資ホテルや日系大手ホテルの動向は、華やかな話題性があるものの、訪日外国客のボリュームゾーンを占めるのは、やはりミドルクラスの旅行者である。

 

こうした一般の日本人の感覚に近い外国客が宿泊するホテルの集中するいくつかの地区が近年、都内で可視化してきた。

 

現在の都内の主なホテル地区といえば、新宿や銀座、品川、上野、さらにリーズナブルな宿泊施設群の集まる浅草界隈などだろう。これらの地区は、高級外資ホテルが集中する東京駅周辺(八重洲、丸の内、日本橋など)や六本木とは明らかに街の景観が違っている。

 

ホテル地区といっても、エリアによって宿泊施設のタイプや旅行者の層も色合いが異なっている。同じ地区の中に、欧米やアジアの個人客やビジネス客が利用するシティホテルと、一般レジャー客のための宿泊特化型やビジネスホテルが混在していることも多い。

 

たとえば、銀座では新タイプの国内ビジネスホテルチェーンの進出ラッシュが起きている。

 

2014年12月に三井不動産が東銀座に「ミレニアム三井ガーデンホテル」を開業。15年春には京浜急行電鉄も東銀座に「京急EXイン」、16年秋には相鉄ホールディングスが「相鉄フレッサイン」を新橋に2ヵ所新設する。

 

これらのホテルはサービスの効率化を進めた従来の宿泊特化型とは違い、外国客やカップルの利用を想定。客室の約7割はダブルベッドにしたり、英語や中国語のスタッフを配備したりしているのが特徴だ。

「アジア最大の歓楽街」歌舞伎町で相次ぐ新規開業

新宿は1970年代に開発された西新宿のホテル地区が広く知られているが、近年JR山手線をはさんだ内側の東新宿にある手頃な価格帯の宿泊特化型ホテルを利用する外国客が増えている。主に欧米からの個人レジャー客だ。この地区のホテルは以前、地方からの出張客が多く利用していたが、それが外国客に代わりつつあるのだ。

 

なにしろ50米ドルを切る価格帯のホテルも多いことから、東新宿は外客FITゾーンだといえる。

 

最近、東新宿ではニューカマーとしてアジアからの個人客も増えている。香港や東南アジアから来た若い旅行者が、新宿3丁目や東新宿の地下鉄駅から重いスーツケースを引きずり、ガラガラ音をたてながらホテルに向かって歩いている姿をよく目にする。

 

東新宿は、明治通りをはさんで歌舞伎町や伊勢丹があり、東京を代表するショッピング&飲食エリアに近いという絶好のロケーションにある。交通の便もよく、東京滞在をリーズナブルに楽しむには好都合の場所なのだ。

 

なかでも話題となっているのが、15年4月、歌舞伎町のコマ劇場跡地に開業した「ホテルグレイスリー新宿」だ。

 

30階にゴジラの世界を体感できる客室を設けており、外からも巨大なゴジラの頭部が見える。「アジア最大の歓楽街」として海外で知名度を誇る歌舞伎町周辺には、近年外国客の受け皿となる宿泊特化型ホテルの新規開業が増えており、まちのイメージが大きく変わりつつある。

 

ホテル業界大研究

ホテル業界大研究

中村 正人

産学社

訪日外国人旅行者の急増、外資系ホテルの日本進出…新業態ホテルも続々登場し、活性化を加速するホテル業界。 数々の話題やトレンド、ビジネスの最新動向など業界のことがもっともよくわかる書籍となっています!

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