年金10万円・70代独居女性の悲劇…「アパート転居」の高いハードル、子ども2人も「見守るのが精いっぱい」のワケ

年金10万円・70代独居女性の悲劇…「アパート転居」の高いハードル、子ども2人も「見守るのが精いっぱい」のワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、ひとり暮らしの高齢者が増加傾向だが、今後はさらにその人数は増えていくと予想されている。気ままなひとり暮らしは快適だが、生活費を抑えるために安い部屋に引っ越そうと考えても、年金生活の単身者が借りられる部屋を探すのは至難の業だ。実情を見ていく。

65歳以上人口の「ひとり暮らし」…男性17.2%、女性25.3%

2023年9月18日現在、65歳以上人口は3,623万人で高齢化率は29.1%※1。65歳以上がいる高齢者世帯は2022年現在、2,747.4万世帯と、全世帯の50.6%とほぼ半数となっている。また、65歳以上のひとり暮らしは、男性が313.8万人、女性が559.2万人。65歳以上人口に占めるひとり暮らしの割合は男性で17.2%、女性で25.3%※2だった。

 

※1 総務省統計局『統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで- 1.高齢者の人口』(https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topi138_01.pdf)

 

※2 厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査の概況』(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/02.pdf)

 

2030年には、おひとりさまも男性が293.5万人、女性が502.4万人となり、65歳以上人口に占める割合はそれぞれ18.2%、23.9%に。2040年には男性が355.9万人、女性が540.4万人となり、65歳以上人口に占める割合はそれぞれ20.8%、24.5%。高齢者の4~5人に1人は「おひとり様」という状況になるといわれている※3

 

※3 世帯主の男女・年齢5歳階級別・家族類型別世帯数--『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2019年推計)https://www.ipss.go.jp/pp-pjsetai/j/hpjp2019/setai/shosai.asp

 

なお、高齢者の住まいは「持ち家」が圧倒的に多く87.4%(3,167万人)。「賃貸(給与住宅除く)」は10.4%(376万人)だ。

 

◆65歳以上の住居形態

 

・持ち家(一戸建て):75.6%

・持ち家(分譲マンション等の集合住宅):11.8%

・賃貸住宅(一戸建て):2.0%

・賃貸住宅(アパート、マンション等の集合住宅):8.4%

・給与住宅(社宅・官公舎など):0.2%

・高齢者向け住宅・施設:1.1%

・その他・不明・無回答:0.9%

 

出所:内閣府『令和5年版高齢社会白書 図1-2-3-2 65歳以上の者の住居形態(択一回答)』https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s2s_04-1.pdfより

 

「高齢者のおひとり様」に絞ると、「持ち家」は66.0%、「賃貸」は31.7%だ。おひとり様の3人に1人は賃貸暮らしで、全国でおよそ200万人強はいると予想される。

 

◆単身高齢者の住居形態

 

持ち家(一戸建て/合住宅):66.0%

賃貸住宅(公営):8.8%

賃貸住宅(都市再生機構・公社):2.6%

賃貸住宅(民営):20.3%

給与住宅:0.3%

間借り:1.5%

その他:0.5%

 

出所:内閣府『令和5年版高齢社会白書』より

おひとり様の賃貸暮らしには「地域差」も

おひとり様の高齢者の3人に1人は賃貸暮らしとはいえ、地域差も大きい。

 

都道府県別では、おひとり様高齢者の賃貸率が最も高いのは「大阪府」の45.3%だ。以降、「東京都」「沖縄県」「福岡県」「北海道」と続く。一方で賃貸率が最も低いのは「秋田県」の16.7%。こちらは「富山県」「新潟県」「島根県」「山形県」と続く。大都市ではおひとり様高齢者の賃貸率は高くなる傾向にある。

 

しかし、「大都市=おひとり様高齢者の賃貸率が高い」とも一概にはいえず、政令指定都市と特別区の21地域を比較すると「大阪市」が最も賃貸率が高く55.8%。「福岡市」「名古屋市」「堺市」「札幌市」と続く。一方、賃貸率が最も低い「新潟市」は23.5%。以降、「さいたま市」「浜松市」「岡山市」「相模原市」と続く。

高齢者の転居、子どもがいても簡単ではない

ある50代女性の70代の母親は、家賃の安い賃貸住宅への転居を希望しているものの、なかなか入居がかなわないという。

 

「2年前に父を亡くしてからも、母は同じ賃貸物件に住んでいます。ですが、今後のために少しでも家賃を節約したいということで、単身用の物件を探しているのですが、なかなかむずかしくて」

 

女性はため息をつく。

 

「私が保証人になれればいいのですが、専業主婦でお金が出せず、夫は人の保証人にはならない主義なので頼めません。遠方に住む弟は、非正規なので無理。母のことは、見守るのが精一杯です」

 

同居について聞くと「すでに姑と暮らしているので…」ということだった。

 

65歳からの部屋探しを支援する株式会社R65による『高齢者の住宅難民問題に関する実態調査(2023年)』によると、高齢者の26.8%が「年齢を理由とした賃貸住宅への入居拒否」を経験。さらに「5回以上断られた経験がある」は11.9%にのぼる。

 

年金受給者の半数が「収入のほぼすべてが年金」という状況にあるが、年金の受取額は、厚生年金受給者で平均14万円であり、65歳以上の女性に限ると平均10万円しかない。生活のために家賃の安い部屋に引っ越したくても断られてばかりで、どんどんお金が出て行ってしまう、というのが賃貸暮らしの高齢者によくあるパターンだ。

 

年金が足りず生活が追い込まれ、さらに家賃の安い所に引越しを検討するものの、「入居審査通らず」…。高齢者を追い込む負のスパイラル。

 

国は、住居の確保が困難な単身高齢者等を支援するための検討会を設置した。しかし、対策が実現化するまでの間も、多くの高齢者が困った状況に立ち往生したままだ。速やかな解決策の提示が望まれる。

 

 

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