(写真はイメージです/PIXTA)

医療法人の「社員総会」における議決権の考え方は、一般的な株式会社のそれとは異なります。誤解したままでいると、今回事例として取り上げる67歳・理事長のように突如退任させられてしまうリスクも。本稿では、株式会社FPイノベーションの代表取締役・奥田雅也氏が医療法人運営に関する“落とし穴”について解説します。

事務長に追い出されたか…理事長は現在行方不明

A理事長の体調不良での退任であれば、A理事長から直接連絡があるはずですし、ひょっとして急病か事故で連絡もできない事態に陥ったのかも……と心配になった筆者は、Xクリニックがある県の県庁へいって過去の事業報告書を閲覧し、法務局で法人の履歴事項全部証明書・閉鎖事項全部証明書を取得しました。

 

事業報告書は、某県では個人情報保護の観点から理事や監事の記載が消されており、理事長が変わったことしかわかりませんでしたが、法人の閉鎖事項全部証明書をみて状況が掴めました。ある日付でA理事長の退任登記がなされ、同日付で違う氏名の人が理事長として登記されていたのです。

 

そして履歴事項全部証明書ではA理事長の後に就任した理事長が退任した同日付で現理事長が就任した旨の記載がありました。

 

ここまでの状況確認をして、なにかあったに違いないと確信した筆者はB事務長へ電話し、保険契約の解約書類を持参して手続きする旨を伝え、アポイントを取って訪問しました。

 

数年ぶりに訪問したXクリニック。外見は当時のままでしたが、コロナ禍を経て事務機能が別場所に移転していました。そのとき初めて会ったB事務長は50歳前後で少し気が強そうな雰囲気の女性でした。

 

名刺交換をして名刺を見たときに「あっ!」と思いました。以前、A理事長にみせてもらった決算書の内訳明細の役員報酬欄にあった奥様の名前と同じ名前だったのです。苗字は違っていましたが、少し特徴的な名前だったこともあり、名刺をみた瞬間に思い出しました。

 

「この人がA理事長の奥様かもしれない」と半信半疑で保険契約の解約手続きを進め、解約書類への捺印等の手続きが済んだ後、雑談的に「ところでA理事長はお元気ですか?」と質問すると、B事務長は投げやりに「さぁ。いま頃どこで何をしているんでしょうね」と答えました。

 

その瞬間に筆者は絶句し、「A理事長はB事務長に追い出されたのかもしれない……」と直感しました。

医療法人の「社員総会」についての“よくある誤解”

医療法人の最高意思決定機関は「社員総会」です。

 

社員総会について誤解している医療法人関係者は多いですが、医療法人の社員は勤務するスタッフのことではなく、株式会社の株主に相当する立場にある人のことです。さらに医療法人運営で多い誤解の1つに、「社員総会」の議決権は医療法人の持分割合によって決まるのではなく、社員1人が1票の議決権を持っているという点です。

 

株式会社であれば、経営者が株式を100%保有していれば議決権は経営者にありますが、医療法人の場合は持分(財産権)割合に関係なく、社員であれば1票の議決権があります。

 

そして、厚生労働省が公表している社団医療法人のモデル定款や医療法人運営管理指導要綱には社員数についての記載はありません。ですが社員が2人だった場合、社員総会を開いても意見が分かれてしまっては決議ができないため、3人以上で設立するように指導しています。

 

当時はXクリニックの社員構成を確認していませんでしたが、B事務長とB事務長に近い人が社員になっていたとすると、社員総会決議でA理事長を退任させることが可能です。そうでないと、A理事長の突然の退任、そして行方不明というB事務長の説明に合点が行かないのです。

 

「B事務長が親しくしていた男性を言葉巧みに社員にして、その男性と結託してA理事長を追い出して医療法人を乗っ取ったのでは……」これは筆者の想像に過ぎませんが、そう的外れではなさそうです。

 

順調であれば地域医療に貢献しつつ天寿を全うできたであろうA理事長の人生が、医療法人運営を間違えたばかりに変わってしまったことはたしかです。もっとA理事長との距離感を縮め、医療法人運営に関するアドバイスができていれば、こんな事態にはならなかったのに……と、筆者がいまでも後悔している一件です。

 

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