貿易摩擦の標的にされた「中国製造2025」
2018年春に勃発した米中貿易摩擦で、米国政府が真っ先に矛先を向け撤回を求めたのは、「中国製造2025」でした。補助金交付や国産比率の設定は不公正な国内企業の保護政策に他ならず、外国企業が不利益を被るというのが表向きの理由ですが、背景には次世代情報技術をめぐる米中の覇権争いがあると指摘されています。
米中対立が激化するなか、「中国製造2025」は軌道修正を迫られ、逆風に晒されているのは事実です。しかし、中国政府や中国メディアによる表立った宣伝こそ激減はしましたが、製造強国を目指す中国の産業振興の動きが止まるわけではありません。
中国流の産業振興の進め方
中国政府は、産業の高度化で先行する地域や企業をモデルとして、他地域や企業に波及効果を及ぼすという方法で「中国製造2025」の目標を達成しようとしています。先行モデル地域で、製造業のデジタル化を実現するパイロット拠点の一つとなっている広東省仏山市の取り組みを紹介しましょう。
仏山市は、上海を中心とする長江デルタと比肩し中国の製造業を代表する中国大陸南部の珠江デルタに位置します。約900万人の人口を抱え、セラミックやディスプレー、白物家電メーカーなどの集積地を擁する製造業の町として知られています。2019年には域内総生産が初めて1兆元(約16兆円)を突破し、広東省内の深圳市と広州市に次ぐ経済規模に成長しました。
仏山市は近年、「機器換人」(人間の労働力にとってかわる機械の導入)のスローガンの下、ロボットやAI技術の活用などを通じ、製造業のスマート化を積極的に推し進めてきました。その結果、工場の自動化と無人化が進み、既に400超の企業が「機器換人」を実現しています。
例えば、世界の企業を番付するフォーチュン・グローバル500にランクインし、仏山市を代表する大手家電メーカーミデア(美的集団)は、スマート製造に積極的に取り組む企業の一つです。2017年1月には世界トップクラスのドイツのロボットメーカークーカ(KUKA)を買収し、産業用ロボット市場にも攻勢をかけています。
仏山市の他にも、内陸では山東省の青島市などでも製造業のスマート化は進行しています。
仏山市や青島市は製造業スマート化の先進的な事例であり、スマート化が中国全土に広がっているわけではありません。が、先行モデル都市を作って、そのノウハウを他地域に広げていくのが中国流の産業振興の進め方なのです。
趙 瑋琳
株式会社伊藤忠総研 産業調査センター
主任研究員
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