(※画像はイメージです/PIXTA)

厚生労働省が10月6日に発表した「毎月勤労統計調査」(8月分)によると、8月の「実質賃金」は前年同月比2.5%減少し、17ヵ月連続でマイナスとなりました。実質賃金とは何か、どのような意味をもつのか、マイナスが続く要因として何が考えられるのか、解説します。

実質賃金が下がる要因

実質賃金が下がる要因は複数考えられます。そのなかでも、よく指摘されるのが以下の3つです。

 

・物価が高騰していること

・労働生産性が向上しない

・労働生産性が向上しても直ちに賃上げにつながらない

 

◆物価が高騰していること

まず、物価が高騰していることが挙げられます。これには、大きく2つの原因があります。

 

第一の原因は、2022年から続くロシアによるウクライナ侵攻に起因するエネルギー価格・食料価格の高騰です。

 

第二の原因は、昨今の「円安ドル高」が影響です。このうち「円安ドル高」は、日本が超低金利政策をとっているのに対しアメリカが相次いで「利上げ」を行い、日本とアメリカの金利差が拡大していることによるものです。

 

◆労働生産性が向上していない

次に、労働生産性が向上していないということが挙げられます。日本生産性本部が2022年12月に発表したレポート「労働生産性の国際比較2022」によると、日本の2021年の「時間当たり労働生産性」は49.9ドルで、OECD(経済協力開発機構)に加盟する38ヵ国のなかで27位でした。

 

日本生産性本部のレポートは、この点について以下のように説明しています。

 

「飲食店の営業自粛や大企業の輪番出社などのコロナ対応、生産拠点の操業停止・短縮などで落ち込んでいた労働時間が増加に転じて生産性を下押しする要因になった」

 

ただし、同じレポートのなかで、生産性の低さが必ずしもコロナ禍の影響のためだけでないこともみてとれます。すなわち、日本の「時間当たり労働生産性」の順位は1970年以降、OECD加盟国中20位前後で、G7のなかでは一貫して最下位でした。コロナ禍の影響で全体のなかでの順位がさらに下がり、他のG7諸国との差が顕著になったということです。

 

生産性が低い原因については、一概にこれと特定することはできません、IT化で後れをとっていること、技術革新が進んでいないこと、中小企業が非常に多いこと、長時間労働が横行していること等、様々な要因が指摘されています。それらが重なり合って、生産性が低い状態になっているといえます。個々の要因について吟味し、有効な手立てを講じる必要があります。

 

◆労働生産性が向上しても直ちに賃上げにつながらない

さらに、日本では労働生産性が向上しても直ちに賃上げにつながりにくいということが指摘されることがあります。内閣府が2022年7月に発表した「世界経済の潮流2022年 I」にもその指摘があります。

 

同レポートは、その要因として「労使の団体交渉の協調度が高い」ということ等を挙げています。

 

このように、実質賃金が下がり続ける背景を探ると、いろいろなことが見えてきます。目下、最もクローズアップされているのは物価の高騰ですが、実際にはそれ以外にも考えられる要因はあります。実質賃金が減少することは、国民生活にとっても日本経済にとってもマイナスであり、国会・政府には、実質賃金の減少を招いている要因を的確にとらえ、それらを解決するために効果的な施策を講じていくことが求められます。

 

 

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