2023年10月のアジア・マーケット・マンスリー(後半)はコチラ>>
アジア:マーケット動向
⇒【株式】概ね下落、【通貨】概ね下落、【債券】金利上昇。
【株式市場】
◆フィリピン、インドは上昇も、その他は下落
フィリピンは、中央銀行が政策金利を据え置いたほか、景気拡大に対する期待感が高まったことなどから上昇。インドも、8月の消費者物価指数(CPI)の前年比伸び率が減速したことなどから堅調だった。
一方、景気の鈍化が続く中、インフレ抑制を目的に中央銀行が政策金利を引き上げたタイが下落したほか、ベトナムも中央銀行が金融市場から流動性を吸収したことなどが嫌気された。韓国は、リチウム価格下落により電気自動車(EV)バッテリー関連銘柄が軟調に推移し、オーストラリアも、世界的な金利上昇を受けて、不動産関連銘柄が下落。香港は、中国の半導体高度化を警戒する米国政府が中国のファーウェイ社の新型スマートフォンについて技術的な検証を始めると伝わり、米中関係悪化懸念が強まった。
【通貨(対米ドル)】
◆概ね下落
米国の金融引き締めが長期化するとの観測から米ドルは9月も上昇し、主なアジア通貨の対米ドルレートは下落した。原油高による貿易収支悪化、利上げ打ち止め観測、輸出・インバウンド観光の促進のため通貨安の容認観測などが重なり、タイバーツが最も下落した。
【債券(国債)市場】
◆金利上昇
アジア国債利回りは欧米金利とも連動し上昇した。タイではインフレ圧力抑制のため8会合連続の利上げが実施された。オーストラリアやマレーシアでは政策金利が据え置かれたが、一部の中央銀行ではさらなる引き締めが必要となる可能性についての見方も維持された。
<※参照:各国の株価指数の名称>
●中国:上海/深圳CSI300指数、●香港:ハンセン指数、●韓国:韓国総合株価指数、●台湾:台湾加権指数、●インドネシア:ジャカルタ総合指数、●マレーシア:クアラルンプール総合指数、●タイ:SET指数、●ベトナム:ベトナムVN指数、●シンガポール:シンガポールST指数、●フィリピン:フィリピン総合指数、●インド:SENSEX指数、●オーストラリア:ASX200指数
中国<金融市場動向>
⇒株式は上値の重い展開、人民元に下落リスク、金利はもみ合いながら低下。
【株式市場】
◆中国経済を巡る不透明感が高まる
サービス部門の景況感が軟調だったことから、中国景気を巡る不透明感が高まったほか、中国の半導体高度化を警戒する米国政府が中国ファーウェイ社の新型スマートフォンについて技術的な検証を始めると伝わり、米中関係悪化懸念が強まった。中国政府が海外から投資資金を呼び込むため、国内上場企業の外国人持ち株比率に関する規制緩和を検討するとの報道があったものの、市場心理を改善させるには力不足だった。
投資戦略においては、引き続き構造的な成長分野の有力企業、政策のサポートを得ている企業、国際競争力のある企業、増配が期待できる企業に着目し、ツーリズム関連や環境関連、国産化が進展するソフトウェアや工場自動化部品、消費の高度化などを長期目線では有望視できそうだ。
【為替・債券(国債)市場】
◆人民元に下落リスク
短期的には米国の金融引き締め観測を背景に米ドルは堅調に推移しやすく、人民元は米ドルに対して下落しやすい。また、当面は日銀による追加引き締め措置は出ないとの観測は円安を支持するが、財務省による円買い介入警戒から対円でも元安リスクに留意したい。
◆債券利回りはもみ合いながら低下する展開
中国では、政府による不動産部門に対する政策調整を背景にリスクセンチメントが改善し、中国国債利回りは上昇した。目先は、政府による不動産部門に対する政策調整期待は一巡し、中国経済の回復の鈍さが意識される状況に戻る可能性が高いと見込み、中国国債利回りはもみ合いながら低下する展開を予想する。
中国<マクロ経済動向>
⇒9月の景気センチメントは改善。
◆製造業PMIが50超え
製造業購買担当者景気指数(PMI)は9月に市場予想を超えて50.2へ上昇した。季節性および政策対応の効果を反映した結果である。しかし、需要不足を指摘する製造業が回答者全体の58%を超えており、製造業のセンチメント改善は一時的と思われる。また、8月下旬に政府は鉄鋼生産(付加価値ベース)の2023年目標を+3.5%前後と設定したが、1~8月に前年同期比+7.6%であるため、9月以降には鉄鋼生産は減産を迫られ、製造業PMIの下押し要因になるだろう。景気抑制の主因は住宅価格の下落に起因する負の資産効果を通じた消費低迷であるとみられ、この点を改善しなければ需要不足による景気抑制の問題解決は困難であろう。
◆低インフレ局面
8月の消費者物価上昇率は前年同月比+0.1%と低位にとどまった。需要不足を背景に需給ギャップが縮小してこない状況であるため、低インフレが続くとみられる。低インフレ下では名目成長率が低めになるため、企業の売上高見通しは下振れしやすい。企業が従業員の賃金を削減しているため、家計の年収は下がりやすくなっており、消費意欲が低下するという悪循環に陥りやすい。
◆不動産センチメントは弱い
国家統計局が取りまとめている不動産センチメント指数は2022年1月以降、急速に悪化し、明確な改善に至っていない。8月も悪化した。不動産ディベロッパーが事実上デフォルト、経営破綻に直面していることから、住宅引き渡し問題は根本的に解決できないだろう。①若年層人口の減少傾向、②不動産税導入への警戒感、③住宅引き渡し問題を受けて、住宅価格は低下局面にある。家計の資産の大宗は住宅であるため、住宅価格の下落は負の資産効果を通じて消費の抑制要因となり、需要不足の主因となっている。
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(2023年10月6日)
石井 康之
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフリサーチストラテジスト
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中国:経済不振で「外国人持ち株比率の規制緩和」も市場心理は改善せず、株式は上値の重い展開。人民元に下落リスク【三井住友DSアセットマネジメントが解説】』を参照)。