「退職金投資デビュー」が極めて危険な理由

「退職金投資デビュー」をする人は本当に多いが･･･

老後の資産管理を行う上で「購買力の維持」を意識することがとても大切なこと、そのためにはリスク性資産も一定割合は保有していたほうがよいことを前回の記事で述べました。

とはいえ、それまでまったく投資の経験のない人が退職金という大金を手にして、いきなりまとまったお金で株式や投資信託を買うという、いわゆる「退職金投資デビュー」は極めて危険です。

ところが、実に多くの人がこの間違いを犯しています。特に退職金が振り込まれた銀行から案内が来て、資産運用セミナーに出かけたりして、勧められるままに投資信託商品をまとめて買ってしまう、というケースがよく見受けられます。

私は個人のお客さまから資産運用の相談は受けていませんが、講演会などに来られた方から質問や相談を受けることがあり、アベノミクス相場が始まった2012年秋以降に退職した人の中に、「退職金投資デビュー」をした人が多いことを実感しました。

私の友人の中にも2012年に退職し、投資を始めた人が何人かいます。幸い、秋からのアベノミクスの恩恵で資産は順調に値上がりしており、なかには「ひょっとしたら俺って運用の天才じゃないかな」などと私にいう人もいます。これは単にこの2年ほどの間、相場がよかっただけの話です。にもかかわらず、勘違いして自信過剰バイアスに陥ってしまっているのです。

こうした方々の多くは、現役時代にはまったく投資の経験がない、むしろこれまで「そういうものには手を出さないほうがいい」という考えでこられた人です。もっといえば「投資の利益なんか不労所得だ」とさえ思っている人が多いのです。こういう人が退職金というまとまったお金を手にして、金融機関から勧められると案外、素直に乗ってしまって、まとまった資金で投資してしまうのです。

投資の利益は決して不労所得などではなく、投資対象についての調査や分析をきちんと行った上で、総合的に判断して行うべきものです。2012年秋からの2年間のような順調なマーケットがいつまでも続くことはありません。どこかで大きく下落することだってあります。

退職金というのは、多くのサラリーマンにとっては生涯でただ一度のまとまったお金を手にする機会です。その運用については慎重な上にも慎重を期するべきだと思います。

理解できる範囲での投資、そして分散投資を心がける

もちろん、いっさい投資に手を出してはいけないということをいっているのではありません。むしろ一定割合の資産は投資に回すほうがいいと私は思いますが、大事なことは二つ、まず自分が理解できる範囲で投資すること、そして二つ目は分散して投資することです。

いくら金融機関から勧められても、その商品の仕組みが完全に理解できないのであれば、手を出すべきではないと思います。最近は、オプションや為替ヘッジを使った複雑な金融商品が出てきています。思いがけないところにリスクが隠れていることも多いのです。

分散投資をするというのは、リスクを低下させる上での大原則ですが、投資対象の分散だけではなく、あまり投資経験のない初心者は、時間の分散も検討に加えたほうがいいでしょう。わかりやすくいえば、いっぺんに買わずに何度かに分けて買うということです。

例えば、毎月一定額を積み立てで買っていくという方法があります。これは必ずしも儲かるとかベストな方法だというわけではありませんが、価格の上下に惑わされず、安心して投資しておけるという意味では一定の効果がある投資方法だろうと思います。

私自身も60歳を超えていますが、今でも毎月投資信託の積み立て投資を継続しています。今まで投資の経験のない人は、まず自分で勉強すると同時に少額で始めることが大切なのではないでしょうか。