資産を「定期預金」で保有=安全とは限らない
今回は、具体的に“お金をうまく働かせる”方法についてお話をしていきましょう。老後の資産運用でもっとも気をつけなければならないのは、過度のリスクを取らないようにすることです。いうまでもなく、リスクという言葉には二つの意味がありますが、ここでいうリスクは資産運用理論での“結果の不確実性”という意味ではなく、損失発生の危険性という意味で使用します。そのほうがずっとわかりやすいからです。
株式や投資信託は元本の保証がありませんから、損失が発生する危険性はあります。債券は満期まで持てば元本が返ってきますが、途中で売却すると損失が出ることもあります。リスクを取らないようにするのであれば、こういう有価証券での運用は一切やらずに定期預金などに預けておけばよい、こう考える人が多いかもしれません。
ところが定期預金にまったくリスクがないか、というと決してそんなことはないのです。なぜなら長い期間には物価の上昇、それもごく短期間の間に急激に上昇するというリスクが存在するからです。
たしかにこの20年ほどの間はずっとデフレが続いていましたが、これから30年先まで一度もインフレがこないかどうかはわかりません。だとすれば、定期預金でずっとおいておいた場合に、インフレによる貨幣価値の下落ということも、リスクとしては十分考えておく必要があります。緩やかなインフレであれば、物価上昇と預金金利の上昇がパラレルに推移することで、それほど心配はないかもしれませんが、いつ何時、資源価格の大幅な上昇による急激なインフレにならないとも限りません。
このように考えていくと、老後の資産管理で大切なことは、将来物価が上昇してもそれに十分耐えられるよう、購買力の維持――すなわち物価上昇によってお金の価値が下がらないようにすることを第一に考えるということです。
国の年金の場合は、原則、支給額が賃金・物価とスライドするので、購買力が減少するリスクは小さいのですが、問題は現在持っている金融資産です。これを全部預金にしておいた場合は、明らかに物価上昇リスクにさらすことになるので、これらの金融資産の購買力を維持するためには、一定割合の金融資産は有価証券で持っておくことも必要です。
リスク資産の保有率は「100−年齢の割合」が最適!?
では具体的に、どういう資産で持っていればいいのか考えてみましょう。一般的には「100−年齢の割合」がリスク資産保有に最適だといわれます。例えば60歳であれば、100−60=40%程度をリスク資産にする、といった具合です。ただ、これはあくまでも参考程度であり、リスク性の資産を持つ割合は人それぞれ違いますので、自分のリスク許容度に合わせた割合で持つべきでしょう。
どんなリスク資産がよいかも一概にはいえませんが、長期のインフレヘッジという観点から考えた場合は、広く世界のグローバル株式(日本も含む)に分散投資をするというのが基本だと思います。それもできれば一度にまとめて買うという方法ではなく、毎月一定額を積み立て投資するほうがより安全です。したがって、世界のグローバル株式に投資できるような投資信託を、積み立てで購入する方法がよいのではないでしょうか。
さらにもう一つの選択肢としては、「個人向け国債変動10年」や、2017年から個人が小口でも購入できるようになる予定の「物価連動国債」を保有するのも有力な方法だろうと思います。これらの国債は普通の国債と異なり、金利上昇局面でも不利にはなりませんし、将来のインフレに対しては十分対応できる金融商品だと思います。(もちろんこれらの国債の購入を推奨しているものではありません。金融商品の購入はあくまでも自己判断でお願いいたします)。