SDGsは研究の意義が説明しやすい
筆者の専門分野には“Topics in Cognitive Science”という国際学術誌がある。2023年7月には、“Conceptual Foundations of Sustainability(持続可能性の概念的基礎)”という特集が組まれた。これはSDGsが心理学の国際的な研究テーマの1つになっていることを示すものだ。
研究者として見た場合、SDGsは社会的要請が高く、研究の意義が説明しやすいテーマの宝庫だ。しかも未知の難問ではなく、従来の研究とも繋げやすい。例えば心理学では、概念理解や意思決定などについて、以前から研究されてきた。研究テーマを「概念理解や意思決定」と言ってもなかなか理解してもらえないが、「どうすれば持続可能性の大事さを理解し、考えてもらえるようになるか」という例にすると、理解してもらい易い。
社会科学、自然科学、工学など様々な分野で、同じように感じる研究者も多いのではないだろうか。
大学の理念はSDGsと馴染みがよい
大学をはじめ教育機関という存在自体が、SDGsと馴染みやすいように思う。学校には様々な建学の理念や設置趣旨があるが、SDGsの17のゴールと1つも関係しないことは考えにくい。例えば筆者が所属する女子大学の建学の理念は「女性が社会を変える、世界を変える」である。これはSDGsの目標5(ジェンダー平等を実現しよう)やSDGsの目標4(質の高い教育をみんなに)、SDGsの目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)に関連している。
SDGsには教育や研究、技術開発に関係する目標もあり、組織としての大学にとっても、研究者としても、従来の延長線の中で取り入れやすい。もちろん組織によって、積極性も情報公開の程度も異なるが、多くの教育研究機関の活動の中でSDGsが扱われているように思う。
イマドキの学生とSDGs
学校や学部によっても異なると思うが、少なくとも筆者の周囲にはSDGsについて積極的に活動している学生はほとんどいない。貧困支援や美化活動、国際援助などを行うサークルなどもあるが、以前から存在しており、SDGsの問題意識に基づいて活動を始めたものではない。また民間企業への就職を志望する学生で、その会社のSDGsへの取り組みを志望理由とする学生は、私は会ったことがない(面接でどう言うかはわからない)。
自身が積極的に活動した経験はなくとも、学生はSDGsに関する話を聞き、調べ、考え、発表する経験を多く積んでいく。自分だけではなく、同世代の知り合いは同じような知識や経験を持っている。これはSDGsに関する知識や考え方が「常識」になっていくと言えるのではないだろうか。今後もSDGsの考え方を「常識」として持つ学生は増えるだろうし、各学生が経験する量も増えるだろう。
卒業した学生が、 意識してSDGsに積極的に取り組むかどうかはわからない。しかし、今の学生たちはこれまでの経験に基づき、「常識」に反した事柄や活動に気づく、そして好まない、という方向に進むのだと思う。
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粟津俊二
1972年滋賀県生まれ。実践女子大学人間社会学部教授。公認心理師。研究者としての専門は認知心理学/認知科学、教育心理学。学内では、授業関連の事項の調整や大学共通教育科目の運営に携わっている。