成果を挙げたからといって給与が上がるほど、日本の状況は芳しくない
転職と給与に関する話題として、筆者も時折取り上げることですが、よく「キャリアの棚卸しをしましょう」というアドバイスを目にします。キャリアの棚卸しは、転職に向けて誰もが行っておきたい作業ですが、その性質は「急がば回れ」。すべての転職希望者に、そのような地道な準備をしている時間がある訳ではなく、なかにはやんごとなき事情から「いますぐに転職したい」という人もたくさんいます。
今回は近々の転職をめざして活動している人を対象に、給与の上げ方についてアドバイスをしていきたいと思います。
まず前提として、一従業員が結果を挙げたからといって簡単に給与が上がるほど、現在の日本の状況は芳しくないということを認識しなければなりません。個人の努力ではどうにもならないことが多いというのが実状です。
ですから、これから転職する人は転職先の給与水準を事前調査することが何よりも重要です。
もし給与が上がりにくい会社を選んでしまった場合、入社後によほどの努力をし、役職に就いて出世をしないことには、給与アップが実現できないという状況に陥ります。まずは、転職先の正確な給与水準を知ることを最優先事項としましょう。
「収益性の高さ」が必ずしも人件費と一致しないワケ
そんな当たり前のことか、と思われるといけないので、少し深堀りしていきます。
転職と給与を考える際のポイントはいくつかありますが、「儲かっている会社は給与が高いはずだ」と勘違いしている人は少なくないようです。実際、過去に多額の賞与を出した実績があるとか、業績賞与を出しているとか、そういうキャッチフレーズを求人の募集要項のなかに掲げている会社があることは事実です。
しかし、会社の収益性は必ずしも人件費とは一致しません。なぜかといえば、給与はその企業文化や属性と密接に関係しているからです。具体的にいうと、まずオーナー企業かどうか。次に上場しているかどうかに注目しましょう。
上場していないオーナー企業の場合、利益処分の専権事項はオーナーにあります。ですからオーナーが従業員還元を重視している場合、一般的な上場企業よりはるかに高い給与水準を誇っていることもあります。ただし上場していないため、多くの場合その辺りの情報は世間一般に知られることはありません。
一方で、利益の大半をオーナー一族への株主配当などに回してしまい、多くの利益が出ているにもかかわらず税金対策のためにオーナー一族に報酬が振り向けられている場合、会社は儲かっていても従業員の給与が非常に低くなる傾向があります。これを「搾取」と呼ぶかどうかは微妙なところですが、こうした会社は収益性と給与水準が乖離しています。
また上場企業の場合、株主が誰であるかによりますが、コーポレート・ガバナンスの厳しい視線にさらされている時代ですから、経営陣の報酬も一般の従業員の給与も上がり過ぎないよう大義名分を使って抑えられがちです。
この場合も、収益性と給与は一致しません。
ただし上場企業のなかには、長年平均年収ランキング1位(1,500万円程度)に君臨し続けているキーエンスのような企業もあります。キーエンスの場合、給与の大部分が変動費で記録されていて固定費ではないのが特徴です。いう通りに仕事をすれば実績が出ますよ、という仕組みになっており、その通り実績を出せば固定費2割で賞与8割といった配分で報酬を受け取れるそうです。きちんと成果を出せば、年収1,500万円に届く仕組みになっているのです。
このほか、収益性が高くネームバリューがあるようにみえても、どこかの大企業の子会社であれば、利益の大半が親会社のために運用されて給与が抑えられてしまう可能性があります。親会社が規模の大きな法人だったとしても、就職する子会社の給与水準について慎重に観察する必要があります。