宇宙飛行士7名が全員死亡…原因は「箇条書き」にあった
タフティは、箇条書きの使い方を間違えると、文字通り人を殺すことになりかねないと確信している。彼はその主張の裏づけとして、2003年に起きたスペースシャトル・コロンビア号の事故に関する最終報告書を取り上げている。コロンビア号は音速の倍のスピードで大気圏に再突入する際に空中分解し、7名の宇宙飛行士は全員死亡した。
その2週間前、コロンビア号が発射した時に外部燃料タンクを断熱するために使われていた発泡材の一部が割れ、破片が左翼の前縁に当たっていた。この時にできた翼の穴に気づかなかったため、シャトルは再突入時に発生する高温に耐えられなくなってしまったのだ。
NASAの職員は、コロンビア号が発射されてから82秒後に小さな発泡材の破片が剥落するのを映像で確認していた。彼らは、シャトルを設計・製造したボーイング社の技術者たちに、その損傷の評価を依頼した。同社のエンジニアたちは速やかに、パワーポイントを使って合計28枚のスライドから成る3つの報告書を作成した。
タフティはそのうちの1枚を、「官僚主義的超合理主義のパワーポイント祭」と揶揄し、内容を分析している。下記図がそれを表したものだ。そのスライドには、6つのレベルの階層から成る箇条書きがあり、それぞれの箇条書きに短い陳述がぶら下がるように連なっている。
NASAの職員は、このスライドに基づいて取るべき行動を決定しなければならなかった。
だがシャトルの実際の損傷についての記述は、小さなフォントで書かれた、箇条書きの下の方の階層に埋もれていた。エンジニアたちは、事の重大さに応じて情報を整理する代わりに、短い文の断片が並べられた箇条書きスタイルという、スライドの定型フォームに合わせる形で情報を入れこんでしまったのである。
このように、完全な文章とは異なり、箇条書きは情報が断片化するため、情報の真の意味が曖昧になってしまう。その結果、 「コロンビア号が危険な状態にないことを示すレポートに満足し、NASAの職員たちは、脅威をそれ以上検証しようとしなかった」とタフティは書いている。
もちろんボーイング社のエンジニアたちは、コロンビア号に何が起こったのかを説明しようとした。しかし、パワーポイントはストーリーテリングのためのツールではないのだ。コロンビア号の事故調査委員会がまとめた最終報告書は、次のような結論に達している。
「パワーポイントの常用は、テクニカル・コミュニケーションとして問題含みの方法であることが明らかになった……情報が、組織の階層に沿って伝達されていくにつれ、重要な説明や裏づけとなる情報は徐々に漏れ、こぼれ落ちていくのである。この文脈において、本パワーポイントのスライドを読んだ上級管理職が、その内容が生命に関わる事態に言及していることに気づかないだろうことが、容易に理解できる」
この事故調査の結論からタフティは、テンプレートに合わせるために情報を断片的に分割することになる箇条書きは、意思決定に実害をおよぼすという確信にいたった。
そのうえで、 「パワーポイントでは、重大な内容のプレゼンテーションには対応できない。真面目な問題に取り組むには、相応に真面目なツールが必要なのである」と述べている。
探し求めていた「新たなアイデアの共有方法」
ベゾスは、タフティの論文の一言一句を咀嚼した。そして、探し求めていた新たなアイデアの共有方法をタフティが発見したのだと気づいた。
それは完全な文章と段落でアイデアを表現するという、5000年の歴史を持つ手法であった。
「パワーポイントのスライドを、文章、数字、データ、グラフィック、そしてイメージをまとめた紙の資料に置き換えること」 、これがタフティの助言であった。ベゾスは、新たな手法を導入する根拠について、次のように説明している。
「4ページの優れた文書を書くことは、ページのパワーポイントを作成するよりも難しいのです。
なぜなら、深く考えず、重要度の差や物事の関連性をよく理解せずに、ナラティブ構造の優れた資料を作成することはできないからです。パワーポイント形式のプレゼンテーションでは、どういうわけか、アイデアをもっともらしく言いつくろい、存在するはずの相対的な重要度の違いを平らに均し、アイデア間の相互の関連性を無視することが許されてしまうのです」