●2023年春闘で平均賃上げ率は30年ぶりの高水準となり新年度入り後の日本株上昇の一因に。
●賃金上昇は家計や企業の行動などさまざまなルートを通じて株価を押し上げる方向に働きやすい。
●来年の賃上げ率は3月の春闘集中回答日待ちだが、3%程度で株価を支える材料になると予想。
2023年春闘で平均賃上げ率は30年ぶりの高水準となり新年度入り後の日本株上昇の一因に
労働団体の「連合」は7月5日、2023春季生活闘争(春闘)の最終集計結果を公表しました。それによると、基本給を底上げする「ベースアップ(ベア)」と、「定期昇給」を合わせた賃上げ率は、平均で3.58%と、前年比で1.51ポイント上昇しました。1993年に記録した3.90%以来、30年ぶりの高い水準となり、新年度入り後に日本株を大きく押し上げた一因となりました。
連合のデータに基づき、1989年から2023年までの賃上げ率の推移を示したものが図表1です。1989年から1991年まで、賃上げ率は5%台でしたが、バブル崩壊とともに低下の一途をたどり、2003年には1.63%の低水準となりました。賃上げ率の推移に日経平均株価の推移を重ねると、連動性の高い時期も多くみられることから、株高の持続性を考える上で、2024年の賃上げ動向は、極めて重要と思われます。
賃金上昇は家計や企業の行動などさまざまなルートを通じて株価を押し上げる方向に働きやすい
ここで、改めて賃金の上昇が株価の押し上げにつながる仕組みを考えてみます。例えば、家計の賃金が上昇し、所得が増えれば、消費の増加につながります。家計の最終消費支出はGDPの構成項目ですので、消費の増加はGDPを増加させ、株価の追い風になります。また、家計の所得が増え、投資余力が生じれば、2024年1月から始まる新しい少額投資非課税制度(NISA)などを利用した、日本株の見直しも期待されます。
なお、企業は、家計の消費が増えてモノがたくさん売れれば、収益が増えるため、より直接的な株高要因となります。収益が増えれば、企業はさらなる賃上げや設備投資にも対応しやすくなりますが、設備投資の増加はGDPを増加させ(民間企業設備もGDPの構成項目)、これも株価にプラス材料となります。さらに、企業が収益の増加を背景に、配当や自社株買いなどの株主還元を積極的に検討すれば、投資家の関心は一層高まると思われます。
来年の賃上げ率は3月の春闘集中回答日待ちだが、3%程度で株価を支える材料になると予想
このように、賃上げは、さまざまなルートを通じて、株価を押し上げる方向に働くと考えられます。そのため、来年も今年のような大幅な賃上げが実現するのか、非常に気になるところです。こうしたなか、経済同友会は7月14日、2023年6月(第145回)景気定点観測アンケートの調査結果を公表しました(図表2)。結果をみる限り、来年も賃上げの傾向が続く可能性が高いように思われます。
ただ、具体的な賃上げ率がはっきりみえてくるのは、来年3月中旬ごろの春闘の集中回答日を待つことになります。ポイントになるのは、年末から年始にかけての国内の物価動向で、よほど大きく物価の伸びが鈍化しない限り、賃上げの機運が大きく損なわれることはないとみています。弊社は2024年の賃上げ率について、平均で3%程度を見込んでおり、日本株を一定程度、支える材料になると考えています。
(2023年9月29日)
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『【日本株】株価上昇のカギを握る「賃上げ」、2024年の「賃上げ率」を予想(三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジストが解説)』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト