「お金に働いてもらいましょ?」投資初心者の60歳、メインバンクのお誘いで〈退職金2,000万円〉を突っ込んだ「特別な金融商品」

「お金に働いてもらいましょ?」投資初心者の60歳、メインバンクのお誘いで〈退職金2,000万円〉を突っ込んだ「特別な金融商品」
(※写真はイメージです/PIXTA)

元会社員の老後生活を支える「退職金」。多くの人は計画的・堅実な使い道を考えているが、なかには金融機関に勧められるまま、退職者向けと銘打った金融商品を購入する人もいる。実情を見ていく。

退職金の使い道、第1位は「貯金」

サラリーマンの老後生活を支える「年金」と「退職金」。近年では、老後資金2,000万円問題の周知もあり、定年時の退職金を頼みの綱としている人も多いのではないか。

 

だが、退職金は企業側の義務ではなく、それぞれの企業が判断して取り入れている制度にすぎない。

 

退職金を大まかに分類すると、従業員の退職時に一括で退職金を支給する「①退職一時金制度」、従業員の退職後、一定期間に渡って退職金(年金)を支給する「②確定給付企業年金制度」、企業が積み立てた掛金を従業員が年金資金として運用する「③企業型確定拠出年金制度」、従業員が退職後、積み立てた退職金が共済機構から支払われる「④中小企業退職金共済」の4つがある。退職金と聞いてイメージするのは①だろう。

 

そんな退職金の額だが、一般社団法人日本経済団体連合会『2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果』によると、大学卒・総合職・60歳定年の場合で2,440.1万円、高卒・総合職・60歳定年で2,120.9万円となっている。「大企業=2,000万円強」というのが1つの目安かもしれない。

 

一方、東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』の調査によると、大卒の定年退職は1,091.8万円となっている。中小企業は大企業の半分程度となっている。

 

大企業2,000万円、中小企業1,000万円――。

 

金額は違うが、一般的なサラリーマンの実生活では、このようなまとまった金額にはなかなか接点がなかったのではないだろうか。

 

定年退職後、通帳に打刻された大きな金額に気をよくして、自分にちょっとした贅沢を許してしまうかもしれない。

 

だが、一般社団法人 投資信託協会の『60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査(2021年(令和3年))』によると、退職金の使い道だが、1位が「預貯金」で59.3%、2位が「日常生活費への充当」で25.6%、3位が「旅行等の趣味」で21.7%、4位が「住宅ローンの返済」で20.8%となっている。多くの人は堅実なのだ。

金融機関営業「お金に働いてもらいましょう?」

だが気になるのは、5番目の「資産運用のための金融商品の購入」だ。こちらの調査では「初めて投資した年齢」も調べているが、それによると「60代」が17.8%。そして、投資を始めたきっかけの上位には「金融機関に勧められた」が上がっている。

 

「インフレの状況で、普通預金で寝かせては不安ですよ」

「運用益で老後生活がもっと豊かになります。お金に働いてもらいましょう?」

 

退職金が振り込まれると、メインバンクからお祝いの言葉とともに、このような「お誘い」を受けることになる。

 

だが、金融機関は一般の人々が思っているよりずっと用意周到だ。退職金が振り込まれるとすぐに金額を把握し、粛々と金融商品の営業をかける準備を進める。もちろん、自分たちが得られる手数料額まで試算ずみだ。

 

退職金を受け取ったばかりで投資未経験の60歳代は、金融機関からみれば生まれたてのヒヨコのようなもの。きわめておいしい営業先なのだ。

理解できない金融商品「思わず買っちゃう」悲しい理由

ただし、いくら無垢なヒヨコだといっても、ニュースで世間を騒がせたような商品は、さすがに記憶に残っている。さすがに仕組債と聞けば、簡単には心を開かない。

 

だが、日本円の定期預金で「退職金受給者だけ」特別に「年率3~6%」という勧誘があったらどうだろう。投資へのハードルは一気に下がるのではないか。

 

このような「退職金受給者限定」の商品の多くは、定期預金と同額か、それ以上の投資信託や外貨定期預金の買い付けが条件になっている。たとえば総額2,000万円を運用するなら、その内訳が「定期預金1,000万円+投資信託1,000万円(以上)」になる、といったイメージだ。

 

仮に、定期預金へ1,000万円を預け入れて、上記のように6%の金利がついたなら、1年後には60万円もの利息を受け取ることになる。素晴らしく魅力的に思えるが、よくよく商品説明を読んでほしい。6%というのはあくまでも「年率」なのだ。しかも、金利の優遇が受けられる期間は3ヵ月程度であり、上記の例なら受け取れる利息は3ヵ月分で15万円ということになる。

 

ゼロ金利時代、15万円なら十分ホクホクかもしれないが、セット購入した金融商品を忘れてはならない。そちらの運用にともなう手数料にも注意が必要だ。

 

大手銀行が販売している投資信託には、購入時に3.5%を超える手数料がかかるものもある。つまり、1,000万円分の投資信託を購入すれば、自動的に35万円以上の手数料負担が発生する。これでは定期預金の金利など軽く吹き飛んでしまう。

 

投資信託は運用成績によって元本割れするリスクがある。また、定期預金とセット販売されがちな外貨定期預金のほうも、円と外貨を交換するときの為替手数料だけでなく、為替変動リスクもある。

本当にメリットがあるのか、慎重な見極めを

なじみの銀行から、ねぎらいの言葉とともに「退職金受給者限定の…」という甘い言葉をささやかれても、冷静に利息や手数料を計算しよう。購入にメリットがないと思えば、ためらうことなく、ハッキリ断ることだ。

 

なかには、メリットを強調されて目がくらんでしまう人や、難解な金融商品の説明にプライドが邪魔して「わからない」のひとことがいえず、購入に追い込まれる人もいる。

 

商品のしくみがわからないものに手を出すべきではないし、ましてやリスクが想像できないものは買うべきではない。「いらない」「わからない」とはっきり伝え、きっぱり距離を置こう。それが老後生活を守る第一歩なのだ。

 

 

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