80代の父が30億円の遺産を残して死去。ひとり娘の依頼者が遺産相続手続きを進めていたところ、全額を後妻に相続する旨を記した遺言が見つかった……。このような場合、依頼者は遺言書に従って相続を受けることができないのでしょうか。本記事では、事例とともに、遺言書の効力と遺留分について、法律事務所Zの依田俊一弁護士が解説します。

遺産はすべて後妻へ…波乱を呼ぶ遺言状

依頼者の久美子(仮名・50代)は、父の光男(仮名・80代)が亡くなり遺品の整理をしていたところ、遺言書を見つけました。そこには、約30億円の遺産を後妻の早紀(仮名・40代)に全額相続する旨が記されていました。

 

光男は、久美子の母である妻を10年前に亡くしています。それから5年後、30歳以上年の離れた早紀と再婚し、以来5年ほど夫婦関係にありました。

 

早紀は、光男の生前に介護なども率先して行い、晩年をともにしていたため、久美子も多少の遺産を相続する権利はあるだろうと考えていました。

 

しかし、久美子の想定を大きく超える全額を相続するという遺言を目にし、大好きだった父への想いが憎悪へと変わります。

 

「あんまりです。たった5年一緒に過ごしただけの娘の私よりも一回りも年下の後妻に、全額渡すなんて。それだけはなんとか避けたい……!」そうして、当事務所へ相談にきたのでした。

 

久美子は遺言書のとおり、1円の相続も受けることができないのでしょうか。

法定相続分より優先される「遺言書」

そもそも、遺言書とは遺産を残す立場にある被相続人が、本人の意思で財産のわけ方を決め、それを書面に記したものです。

 

相続においては、被相続人との関係に応じて法定相続分が定められていますが、遺言書がある場合は遺言書の内容、つまり「被相続人本人の意思」が最優先されます。

 

本記事のケースでは、法定相続人を配偶者(早紀)と子(久美子)の2人とした場合、約15億円ずつを均等にわけるのが法定相続分となりますが、遺言が優先されるため、全額を早紀が相続することになります。

久美子が「遺留分」として主張できる金額

では、遺言書がある以上、久美子は遺産相続を諦めないといけないのでしょうか。

 

今回のように、本来相続すべき立場にある人が相続の対象になっていなかったり、極端に少ない割合を遺言によって定められていたりした場合には、「遺留分」という一定金額の遺産相続が民法で保障されています(民法1042条)。

 

遺留分の権利者は「兄弟姉妹以外の相続人」とされており、配偶者、子、直系尊属(父母)が対象となるので、久美子は遺留分を主張することができます。遺産の総額に対する遺留分の割合は、相続人ごとに1/2もしくは1/3となっています。

 

相続人が配偶者と子の場合、相続財産に対して1/2が遺留分となります。そして、相続人が複数いる場合は、法定相続分(民法900条及び民法901条)に1/2を乗じた数値が遺留分となります。

 

つまり、今回は久美子の法定相続分は1/2なので、1/2を乗じた相続財産の1/4が久美子の遺留分となり、総額約30億円の相続財産に対して、7億5,000万円が久美子の遺留分として主張できる金額となります。

 

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※依頼人の特定を避けるため、登場人物の設定を変更して一部脚色しています。

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