相続の現場には、家族も知らなかった衝撃事実が判明し、思わぬトラブルに発展するケースが存在します。本記事では、被相続人と戸籍上は兄妹ではないことが判明した和代さん(仮名)の事例とともに、円滑な相続のためにできる生前対策について法律事務所Zの依田俊一弁護士が解説します。

兄の死後に判明した、まさかの事実

依頼者の和代(仮名・70代)は、80代の兄・重雄(仮名)が亡くなり、遺産と相続について調べ始めました。重雄は約5,000万円の不動産を所有していましたが、相続に関して遺言は残していません。

 

前提として、遺言書などで明確に相続人が決められている場合を除いて、相続権を持つ「法定相続人」は戸籍上の親族のなかで、優先順位が法律で定められています。

 

配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となりますが、重雄は結婚しておらず、第一順位にあたる子供もいません。相続順位としては、両親や祖父母が第二順位となりますが、いずれも亡くなっています。子供と親がいない場合は、兄弟姉妹が第三順位の相続人となります(民法889条1項2号)。重雄には和代のほかに兄弟姉妹はいないため、和代が相続人に該当します。

 

重雄は戸籍上「兄」ではなく「赤の他人」だった…

ここまで聞くと、特に揉める要素は見当たりませんが、和代と重雄が兄妹であることを証明するため、戸籍謄本を取得したところで、和代も知らなかった事実が判明します。戸籍上、和代と重雄は兄妹ではなかったのです。

 

和代の母に離婚歴があることは和代も知っていましたが、重雄は母の元夫の子供だったのです。この場合重雄と和代は、血縁上は父の違う異父兄妹となります。

 

そしてなんと、重雄の法律上の母として、実際に出産した和代の母ではなく、元夫の後妻を母として出生届が提出されていました。つまり、戸籍上まったく血縁関係のない元夫の後妻が実母として登録されていたのです。2人は戸籍上は異父兄妹ですらなく、まったく関係のない赤の他人ということになります。

 

和代と重雄は幼きころより兄妹として育てられ、成人してからも兄妹として過ごしてきましたが、法律上は他人であったのです。

 

和代は、重雄の戸籍上の家族(戸籍上の兄の1人)に連絡をとり、いままでの兄妹として育てられたという経緯、および仮に債務が見つかった場合はすべて責任を負うという条件にて、重雄の相続分の譲渡を受けることになりました。

 

相続分の譲渡とは、相続によって発生する資産および負債の譲渡を受け、資産も負債も負う(もっとも元の相続人を免責するためには債務の債権者の同意が必要となるので通常は重畳的債務引受となる)との契約行為です。

※金融機関をはじめとした債権者に対する債務を、元の債務者が債務を返済する状態のまま、第三者がその債務の返済を引き受けること

 

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※依頼人の特定を避けるため、登場人物の設定を変更して一部脚色しています。

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