日本証券業協会が「令和6年度税制改正要望」で行った提言
以上を前提に、日本証券業協会が「令和6年度税制改正要望」でiDeCoに関してどのような提言を行ったのか、重要なポイントを5つ取り上げて解説します。ここには、iDeCoの制度が抱える課題のみならず、日本社会が抱える問題が透けて見えます。
・加入可能年齢・受給開始年齢の上限を引き上げる
・掛金の限度額を引き上げる
・「団塊ジュニア世代」等のために掛金の「追加の枠」を設ける
・掛金について「生涯拠出枠」を設定し、各年の掛金を柔軟に設定できるようにする
・途中でお金を引き出せる条件を緩和する
◆加入可能年齢・受給開始年齢の上限を引き上げる
加入可能年齢について、現行の65歳未満から70歳未満へと引き上げるよう提言しています。改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業確保措置が努力義務とされているので、それに合わせたものです。
なお、それに合わせ、受給開始年齢の繰り下げができる期間の上限も、現行の75歳よりも延長することを提言しています。
◆掛金の限度額を引き上げる
次に、掛金の限度額の増額の提言です。「今後行われる公的年金の財政検証を踏まえ、高齢期に必要となる年金所得水準を確保するための拠出限度額の引上げも重要」と述べています。
老後の生活資金を、公的年金の受給額とiDeCoの受給額と合わせた額で十分にまかなえるようにする、そのために、iDeCoの掛金の上限を引き上げることを検討すべきという意味です。
◆「団塊ジュニア世代」等のために掛金の「追加の枠」を設ける
これは特にいわゆる「団塊ジュニア世代」を念頭においた提言です。団塊ジュニア世代は、いわゆる「就職氷河期世代」と重なります。就職難で、就職できたとしても非正規雇用等で低収入で働かざるを得なかった人が多い世代です。
若い頃には生活していくのが精いっぱいで、老後資金の準備が困難だった人が多いとみられます。この世代が50代にさしかかっており、退職後の生活資金の準備が不十分である可能性があります。もちろん、団塊ジュニア世代以外にも、同様のケースは考えられます。
そこで、掛金の上限に加え、追加で払える枠を設けようというものです。
追加の枠をどのように設定するかについては、一定額とする方法、あるいは、各人の過去の掛金上限の未使用分に応じて個別に設定する方法を提案しています。
◆掛金について「生涯拠出枠」を設定し、各年の掛金を柔軟に設定できるようにする
各年の掛金の自由度を高める提言も盛り込まれています。これは、所得が多くなったり少なくなったりすることに対応できるようにするものです。
すなわち、現行の制度では、掛金の年間の限度額は所得や生活にかかわらず毎年一律となっています。これでは、所得が低い期間に掛金を少なくし、所得が高くなったら掛金を大きくするといった調整が困難です。
そこで、全期間トータルの額(生涯拠出枠)を設定しておき、そのなかで、年間掛金を柔軟に設定できるようにする方法を提案しているのです。生涯拠出枠は、加入可能期間中(現行は20歳~65歳未満、提言では20歳~70歳未満)、掛金の上限額をフルに支払った場合の総額を提案しています。
たとえば、サラリーマン(企業年金なし)の場合、年間の掛金限度額は27万6,000円(月2万3,000円)です。加入可能年齢が提言どおり「70歳未満」まで延長されたと仮定して、20歳から掛金上限額を50年間フルに支払った場合、総額は1,380万円になります。これを「生涯拠出枠」とします。
この「生涯拠出枠」のなかで、所得が少ないときには掛金を「月5,000円」など低く抑えたり、所得が高いときには掛金を「月10万円」などと高く設定したりできるようにするということです。なお、提言では一応、1年あたりの上限を「生涯拠出枠の10%」としています。
◆途中でお金を引き出せる条件を緩和する
現状、iDeCoにおいては前述したように、受給開始年齢(最短で60歳)になるまでお金を引き出すことができません。
しかし、生活に困窮してどうしようもないときにまで引き出せないのは、酷です。そこで、災害等のやむを得ない事情がある場合のみ中途で引き出すことを認めるよう、提言しています。
このように、日本証券業協会が「令和6年税制改正要望」のなかで行った提言は、老後資金の準備としてiDeCoを使いやすくするために、様々な点で柔軟性を持たせるものです。日本証券業協会は、資産運用の専門家集団である証券会社がすべて加入する業界団体であり、今回の提言は、その専門的な知見に裏付けられたものとして、重要な意味を持つものといえます。その内容が令和6年度税制改正にどの程度反映されるか、注目されます。
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