ぺ二オク詐欺事件から10年以上…「ステルスマーケティング規制」令和5年10月新設も、事業者側「広告作成」の戦々恐々【弁護士が解説】

ぺ二オク詐欺事件から10年以上…「ステルスマーケティング規制」令和5年10月新設も、事業者側「広告作成」の戦々恐々【弁護士が解説】

10年以上前、多数の芸能人が関与した、ペニーオークションの「ステルスマーケティング」の問題。この一件で「ステマ」というワードも広く知られることになりましたが、いよいよ令和5年10月から「ステルスマーケティング規制」が施行されることになりました。消費者としては安心ですが、一方、ビジネスを展開する事業者側は自社の広告宣伝に神経を使うことになります。留意点はどこでしょうか。山村法律事務所の寺田健郎弁護士が解説します。

運用基準の詳細…ステマは「2つの要件」で構成される

上記内閣府告示及び運用基準によれば、ステマ規制は、以下の2つの要件にて構成されていると理解することができます。

 

➀事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示

②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

➀事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示

この要件だけだとわかりにくいと感じる方も多いと思いますが、前記のように、「ステマは、消費者が警戒心をはたらかせることができず、合理的な選択ができない」という点から考えてみればわかりやすいでしょう。

 

つまり、広告が第三者の自主的な意思による表示ではなく「事業者が行う表示」といえる、すなわち事業者が表示内容(広告)の決定に関与したといえる場合です。運用基準では、

 

(ア) 事業者が自ら行う表示

(イ) 事業者が第三者をして行わせる表示

 

の2つに分けられており、どう違うか見ていきましょう。

 

(ア)事業者が自ら行う表示

この場合は非常にわかりやすく、「事業者が自ら自社の商品を宣伝する」場合です。この場合、ステマであると判断される可能性は低いです。ただし、事業者の販売チームの従業員や子会社の従業員が販促のための表示を行う場合は、確認を行う必要があります。

 

【要件に該当する例】

 

A社が自社の商品を宣伝する

 

【要検討の例】

 

A社の従業員が、A社の商品を宣伝する場合(従業員の地位・立場や表示の目的によって規制対象となる可能性)

 

(イ)事業者が第三者をして行わせる表示

いわゆるステマとして一番問題になりやすいのがこちらの類型です。消費者からすれば、一見して「第三者の表示」(=販売元企業に関係のない第三者の口コミ)なのか「事業者の表示」(=事業者が行う広告)なのかわかりにくい可能性があるからです。

 

この表示については、さらに、「事業者から第三者に対して明示的な依頼・指示があったか否か」によっても分かれることになります。

 

明示的な依頼・指示があった場合は、「事業者の行う表示」に該当すると考えられる一方、明示的な依頼がなくとも総合的に「事業者の行う表示」にあたるか判断されます。

 

【要件に該当する例】

 

事業者が第三者に依頼して、第三者のSNSに自社の商品の表示をさせる場合(明示的な依頼あり)

 

【要件に該当する例】

 

事業者が第三者にSNS上に表示してもらうことを期待して当該商品を無償提供し、その結果、第三者がSNSに表示を行った場合(明示的な依頼なし)

 

【要件に該当しない例】

 

直接の依頼や対価提供等がなく、第三者が自主的にSNS等で表示したといえる場合

②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

2つ目の要件を簡単にいえば、「一般消費者にとって、事業者の表示か第三者の表示か明瞭になっているか、誤認されやすいものとなっていないか」といえるでしょう。

 

 

【OKな例】

 

〇「~社から商品の提供を受けて投稿しています」と文字で表示を行っていた場合

 

〇「#PR」のように誤解されにくい文言が記載されている場合

 

 

とくに、一般消費者からすれば、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言が使われているのであれば、それは「事業者の表示」であるということが明らかであると考えられるため、誤認の可能性もなく、ステマ規制の対象とはなりません。

 

 

【NGな例】

 

×「広告」「PR」のような記載がそもそも存在しない

 

×「広告」と記載しながら、「第三者としての感想です」という併記がある場合

 

×事業者の表示であることを示す「PR」等の文言が、他の文字と比べて小さい、視認しにくい色である、薄い、動画の場合に短時間の表記しかされない

 

×事業者の表示であることについて、他の情報に紛れ込ませる(SNSにて大量のハッシュタグに紛れさせる場合

 

 

これらは、一般消費者にとって、一見して誰のどのような広告か判別できない、誤認させるおそれがある広告であると判断されやすいため、ステマ規制の対象となる可能性が高いといえるでしょう。

事業者側は常に「適切な広告かどうか」の視点が必要

上記の要件をまとめると、

 

1 広告が、「事業者の行う表示」なのか「第三者の行う表示」なのかという問題

事業者が第三者をして、「事業者の行う表示」をする場合、とくにステマ規制の対象となりやすい

 

2 広告が、一般消費者にとってどちらの表示か明瞭になっているかという問題

「広告」「PR」といった一義明白な文言がわかりやすくしっかりと表示されていない場合はステマ規制の対象となりやすい

 

という分類をすることができます。

 

事業者としては、ステマ規制に違反した場合の罰則についても気になるところです。今回の規制によって、ステマ規制違反は景表法違反になりますので、消費者庁による措置命令(同法7条)や措置命令に違反した場合の刑事罰(同法36条)の対象となります。いずれも無視できない点であるため、事業者としてはしっかりと確認をする必要があります。

 

今回は、ステマ規制の概要についての説明になりますが、実際に事業者として広告を運用するにあたっては、悩ましい面が多く出てくることが想定されます。とくに、第三者に対しての依頼・指示の程度や対価性、一般消費者を誤認させない程度の明瞭性は一義的なものではなく、様々な可能性を検討する必要が生じます。そのため、事業者だけでの判断では足元をすくわれる可能性も高いです。

 

事業者としては、必要な場合には専門家の意見を踏まえつつ、適正な広告であるか常にチェックを欠かさない姿勢が重要となってくるといえるでしょう。

 

 

寺田 健郎
山村法律事務所 弁護士

 

 

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