社内でセクハラ問題が発生! まず最初にやるべきは…
ハラスメント対応は、初動で決まるといっても過言ではありません。
実際にセクハラが起こってしまった場合、まず最初におこなうべきことは、「事実関係の確認」です。この事実関係の確認で重要となるのは、被害者のされたことが本当にセクハラにあたるのかどうかの認定です。同時に、被害者へのケアも充分におこなう必要があります。
その後、セクハラが認定された場合、「①被害者が会社に対して請求をおこなう可能性があるのか」「②加害者に対してどのような処分をすべきか」についても検討する必要があります。
では、これらのおこなうべきことについて、詳細に解説していきます。
「本当にセクハラだったのか?」を確認
まず事実関係の確認ですが、起こってしまったことが本当にセクハラだったのかを確認していきます。
どのようなことがセクハラに当てはまるのか、セクハラの定義の詳細については、記事『社会的生命も、一瞬で吹き飛ぶ…企業のセクハラ問題「絶対NGライン」』で解説しましたが、この事実確認の際に問題になりやすいのが、
〈職場〉でのできごとか?
〈労働者〉に該当するか?
〈性的な言動〉に該当するか?
〈労働環境を害される〉ものかどうか?
の4点です。
◆〈職場〉でのできごとか?
もしも、現場となったのが職場内であれば、間違いなくこの定義に当てはまりますが、業務後の飲み会や、帰り道など、実際の職場ではないけれど、職場の延長のような場所が現場だった場合は、〈職場〉でのできごとにあたるのかどうかが問題になることがあります。
◆〈労働者〉に該当するか?
このセクハラの当事者同士がそれぞれ正社員同士であれば、もちろん労働者に該当しますが、当事者が契約社員やパート、委託契約の方や偶然来社していた訪問者など、会社の正社員でなかった場合は、認定の際の問題になりやすいといえます。
◆〈性的な言動〉に該当するか?
具体的には、セクハラの内容が、胸を触った・お尻を触ったなどの身体的接触を伴うものや、「彼氏いるの?」「彼女いるの?」といった質問は、もちろんセクハラに該当します。多様性に関する意識が浸透してきた昨今では、性的指向を揶揄することや、アウティングの強要などもセクハラ認定されるようになりました。判断は難しく、認定の際に一番問題になりやすいのが、この〈性的な言動〉に該当するか、という点です。
◆〈就労環境を害される〉ものかどうか?
実際に性的な言動があった場合、それらの言動があったら即セクハラ、というものではありません。それらの言動が労働環境を害していると判断されなければ、セクハラと認定されることはありません。この〈労働環境を害される〉と思う基準が人によって異なるため、問題になりやすいといえます。
以上のように、セクハラの事実確認の際には、問題に発展しやすいポイントがいくつもあります。
これらを踏まえて個人が正しい判断を下すのは難しく、被害者や加害者の直属の上司が直接話を聞いて判断を下す、というものでは不十分だといえます。
公平な判断を下すためには、やはり専門家に依頼することをおすすめします。例を挙げると、セクハラに関する専門的な研修を受けて知識をもつ管理職の方でもいいですし、弁護士に依頼する、という方法もあります。
被害者がおこなう可能性のある「請求」とは?
セクハラが認定されると、被害者が加害者や会社に対して請求をおこなう可能性がありますが、どのような請求が来る可能性があるのでしょうか。
◆加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)
民法709条の趣旨は、損害を与えた加害者を罰するのではなく、生じてしまった損害を賠償させ、被害者を救済しよう、という非常に単純なものです。たとえるならば、歩行者が自動車にはねられ入院した場合、自動車を運転していた加害者に損害賠償を請求するのと、法的根拠は同じです。
つまりこの場合は、加害者のセクハラによって生じた損害を加害者が賠償せよ、という請求です。
◆会社に対して、使用者責任に基づく損害賠償請求(民法715条)
民法715条は、会社を経営するにあたっての会社側が負わなければならない「使用者責任」に関する法律で、会社がおこなう事業の際に、従業員が生じさせた第三者に対する損害については、会社も損害を賠償する責任を負う、ということが定められています。
つまり、今回解説しているようなセクハラの場合は、業務の執行中に従業員が、第三者(この場合はセクハラ被害者)に損害を与えた場合、会社も損害を賠償せよ、という請求を受けることになるのです。
◆職場環境配慮義務違反による損害賠償請求(民法709、415条)
職場環境配慮義務違反による請求は、これも会社に対する損害賠償請求です。
そもそも会社は、従業員の身体の安全の確保や、職場においておこなわれる性的な言動などで、従業員が不利益を受けずに働けるよう、必要な配慮をしなければいけない、職場環境配慮義務というものがあります。
つまり、職場でセクハラが起きないようにするための配慮を怠っていれば、職場環境配慮義務違反になってしまうのです。
被害者側は、加害者と同時に「会社」も訴えることが一般的
このように、セクハラをおこなったのは会社自体ではなくても、会社に対しての損害賠償請求が2つあり、被害者側は、加害者と同時に会社も訴えることが一般的です。
なぜかというと、加害者に対しての請求は大抵認められ、賠償額は何十万、何百万という額になります。これだけ大きい額になると、加害者だけでは支払えない場合が多いのです。
そのことを鑑みて、被害者側は加害者が払えない分を会社に払ってもらおうと、会社を同時に訴えることが通常になっているのです。
「では、会社側はこの損害賠償を防ぐ方法はないのか?」と思われる方も多いでしょう。
会社としては、普段からのハラスメント対策がきちんとしていれば、損害賠償の請求は認められにくくなります。
これは、先ほど解説した、職場環境配慮義務を果たしていることになるため、職場環境配慮義務違反での請求は認められにくくなるのです。また、普段からハラスメント対策をおこなうことによって、そもそもハラスメントが起きにくくなります。
このように、普段からの対策が重要になるのです。
また冒頭で、セクハラが起きた際は、初動で被害者へのケアをきちんとおこなう必要がある、と触れましたが、被害者に対して、充分なケア・対応をおこなっておけば、「会社は味方である」「セクハラに対して真摯に向き合ってくれている」と判断し、心情的に会社を訴えることが少なくなる、といったケースもみられます。
そのため、会社側としても、被害者に迎合する・いうことを聞く、ということではなく、ケアをしたうえで対話をし、対応をすることが重要になります。
加害者側への対処は「行為」と「処分の重さ」の均衡が重要に
セクハラの認定後、被害者による請求の対策と同時に検討しなければならないのが、加害者に対する処分の決定です。
基本的に、就業規則にハラスメントに対する懲罰規定を置いたうえで、それに従って処分をおこなうことが原則となります。
また、被害者のケアが重要だとお話ししましたが、そちらに気を取られて加害者に対して重すぎる処分をおこなってしまうと、今度は加害者側が牙を剥いてくることがあります。
例を挙げると、軽微なセクハラをしたことは認めるが、それに対して懲戒解雇等の重すぎる処分をおこなってしまうと、「その処分は有効ではないのでは」と、処分の有効性に対する訴訟等に発展しかねません。
これらを防ぐためにも「就業規則に則った処分」というものが重要になるのです。
また、懲罰規定がしっかりとあれば、セクハラによる懲戒自体は認められる一方で、現代の労働法の法整備上においては、解雇までは認められにくい傾向にあります。
このように、行為と処分の重さの均衡が重要になるため、就業規則、懲罰規定を定める際には、充分に注意が必要です。
まとめ
セクハラが起こった場合の対応策について解説しました。
セクハラが起きた場合は、事実関係の確認、被害者のケアや請求を防ぐための対策、加害者への適正な処分の検討などなど、多くのことを同時並行で進めていかなければならず、対応を誤れば被害者側、加害者側、両方からの訴訟を受けるリスクや、労基署に駆け込まれるなど、様々なリスクを抱えることになることがおわかり頂けたかと思います。
もし起きてしまった場合は、慎重かつ迅速に対応をしていくことが前提ではありますが、セクハラが起きなければ、このようなことをする必要はありません。
やはり、まずはセクハラが起きないような職場環境を整備していくことが一番重要なのです。
寺田 健郎
山村法律事務所 弁護士
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