パワーカップル世帯の動向(3)金融意識と消費傾向-金融・経済への関心高く、旅行や教育、趣味などの消費に積極的

パワーカップル世帯の動向(3)金融意識と消費傾向-金融・経済への関心高く、旅行や教育、趣味などの消費に積極的
(写真はイメージです/PIXTA)

高収入で共働き夫婦である「パワーカップル」の妻の金融意識をみると共働き一般と比べて、金融・経済への関心が高いようです。本稿では、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏がパワーカップルの金融意識と消費傾向について分析します。

5―おわりに~都市部で加熱する教育市場、共働きの時短需要は堅調、就労環境整備で消費は底上げ

冒頭で述べた通り、本稿で用いた調査データはパワーカップルの分析を主目的としたものではないため、断片的な情報であることは否めないが、興味関心のある方にとって少しでも有意義な情報を発信するために、現在、パワーカップルの存在が目立つ市場として、子どもの教育市場や家電など共働き世帯の時短志向があらわれている消費市場について触れたい3

 

近年、都市部を中心に子どもの受験年齢が低年齢化している。文部科学省「学校基本調査」によると、少子化にもかかわらず、中学受験人口は増加しており、2018年から2022年にかけて、中学生の人口(325万1,670人→320万5,220人で▲4万6,450人)や公立校の在籍者数(298万3,705人→293万1,722人で▲5万1,983人)は減少する一方、私立校の在籍者数は増加している(23万8,326人→24万6,342人で+8,016人)。

 

なお、中学受験対策では、小学6年生の冬に実施される入試に向けて、小学3年生の2月からの3年間の通塾が一般的だ。学年が上がるにつれて、週当たりの通塾日数や模試が増えるため費用がかさんでいくのだが、大手塾の料金を試算すると、3年間で合計250万円程度が1つの目安のようだ。

 

加えて、苦手科目を強化するコースを追加したり、個別指導や家庭教師に依頼することもあり、中学受験をテーマにした人気漫画では「課金ゲーム」と表現されている。

 

また、中学受験が過熱する地域では、人気塾に在籍する権利をあらかじめ確保するために、通塾年齢の前倒しが進んでおり、既に小学1年生の時点で新規募集を制限する校舎も増えている。通塾期間が長くなれば、当然ながら、費用は一層かさむことになる。

 

中学受験が増え、教育熱が高まる背景には、大学進学世代が母親となったこと4に加えて、中学受験世代の親が増えたこと、仕事などでグローバル化やIT化の進展に対峙する世代が親となることで教育を重視する志向が一層高まっていることなどがあげられる。そして、経済力があり、高学歴夫婦も多いであろうパワーカップルは、加熱する「課金ゲーム」の主要プレイヤーと見られる。

 

さらに、ごく一部ではあるが、都市部では小学校受験の人気も高まっているようだ5。そうなると、小学校の学費もさることながら、受験に向けた幼児教室の費用も必要となり、教育費のかさむ時期は更に前倒しされ、かつ長期化することになる。

 

このような状況を見れば、パワーカップルの増加は子どもの経済格差や教育格差の拡大を助長しかねないという懸念もあるだろう。現在、自治体などでは子ども食堂などで食事の提供に加えて無料の学習支援にも取り組む姿が見られるが、格差を是正するためには、経済環境と教育環境の両面から子どもの居場所を整える必要がある。

 

また、パワーカップルをはじめとした共働き世帯では時短を叶える商品やサービスの利用にも積極的だ。テレワークの進展で可処分時間が増えたとしても、特に子育て中の共働き世帯では、仕事と家庭の両立に十分な時間があるとは言えない。

 

よって、食洗機や洗濯乾燥機などの時短家電、食のデリバリーサービス、家事代行サービス、シッターサービスなどの代行サービスの需要は底堅い。最近では子どもの保育をしながら、絵や工作、英語、ピアノなどを教える「習い事シッター」なども登場し、従来から存在するサービスの高付加価値化も進んでいるようだ。

 

前稿でも述べたように、生活や働き方の選択肢が増す中で、誰もが共働きやパワーカップルを目指す必要はない。ただ、女性の経済力が増すことは日本経済を活性化させることにはつながるだろう。

 

年収階級別に男女の消費性向を比べると、全体的に女性の方が高い傾向がある(総務省「2019年全国家計構造調査」の単身勤労者世帯の比較)。つまり、女性の方が男性より消費意欲が旺盛であり、働く女性が増え、その収入が増えれば消費は膨みやすい。

 

また、夫婦世帯単位で見ても、現役世代の世帯収入が増えれば消費に結びつきやすい。仕事と家庭を両立するための就労環境の整備と言うと、消費喚起策としては遠回りのようだが、その効果への期待は大きい。

 


3 久我尚子「女性の「就労環境」整備でパワーカップルは増加!」、月刊リベラルタイム(2022年7月号)を更新。
4 文部科学省「学校基本調査」によると、女性では1996年入学から大学進学率が短大進学率を上回る。
5 例えば、2019年度に新設された東京農業大学稲花小は、都会にありながらも農業体験やICT、英語教育などに特色を持ち、共働き世帯向けに放課後の学童保育も備えることで、学費は年間100万円を超えるが、倍率10倍を超える人気だ。また、2022年度より全国初の小中高一貫校として開校した東京都立立川国際中等教育学校附属小学校は、外国語教育やリーダーシップ教育を掲げており、私立より諸経費が格段に安いことなどから、初年度の倍率は30倍を超えた。これらの状況などはメディアでも取り上げられている(「小学校受験、増える傾向続く」朝日新聞、2021/11/13など)。

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月7日に公開したレポートを転載したものです。

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