※画像はイメージです/PIXTA

『国税最後の砦』と呼ばれる国税局査察部(通称:マルサ)。その実態はベールに包まれており、テレビや新聞、書籍などではさまざまな憶測が飛び交っています。しかし、“元マルサの税理士兼僧侶”という異色の経歴を持つ上田二郎氏は、「まったくの見当違いや正確性を欠く記事も少なくない」といいます。そこで、上田氏がこれまでの実体験をもとに「マルサの実態」を暴露します。

都市伝説“マルサは大企業を狙わない”の真偽

国税通則法第11章に「国税に関する犯則事件を調査するため必要があるときは、裁判官があらかじめ発する許可状により、臨検、犯則嫌疑者等の身体、物件若しくは住居その他の場所の捜索、証拠物若しくは没収すべき物件と思料するものの差し押さえをすることができる」と定めている。

 

ここでいう犯則事件の調査こそが、マルサの強制調査だ。そして、マルサが狙う不正所得を犯則所得と呼ぶ。犯則所得は一般的な税務調査で仮装・隠ぺい行為があった場合に賦課される重加算税対象所得に近いが、意図的な期間計算(期ずれ)や科目仮装(交際費限度額計算)などは含まれない。つまり帳簿外の取引や架空経費の計上など、除外取引によって私腹を肥やしたような簿外資金(タマリ)が生じる所得を指す。

 

また、マルサを知らない者は『調査官1人当たりの追徴税額はリョウチョウ(※)のほうが上』などと言うが、そもそもマルサは刑事告発を目的としているため、確かな証拠がある不正部分しか告発対象にならないことを理解していない。

※国税局資料調査課の通称

 

さらに「マルサは大企業には強制調査をしない」との記事を見かけるが、何が根拠なのかまったく理解できない。少なくとも筆者が東京国税局査察部に在籍していた期間、毎年とは言わないまでも2~3年に一度は調査部所管の大企業にも強制調査に入っていた。

 

大企業に強制調査を行わない理由として、申告した所得に対する率を挙げているようだ。仮に大企業の申告納税額が20億円あったとすると、調査で発見した脱税額が1億円だったなら5%の脱税率に過ぎず、中小企業の脱税率とは重さが違うとの主張のようだ。そうであるなら、大企業の申告所得が低ければマルサのターゲットになるということだ。

 

しかし、この憶測には誤解がある。大企業の強制調査が少ない本当の理由は「コンプライアンスがしっかりしている」からだ。ワンマン社長が私腹を肥やすような大企業は少ない。逆にいえば、脱税資金がワンマン社長の懐に戻る構図ならターゲットになってくる。

 

筆者が担当した大企業(服飾品の製造会社)は、海外子会社からのロイヤリティー収入を除外し、資金をハンドキャリーで国内に持ち込んで脱税していた。

 

このように、大企業にももちろん例外はある。そのようななか、相対的にみて「大企業への強制捜査が少ない」理由は、こうした“例外”が少ないからだといえるだろう。

 

 

上田 二郎

元国税査察官/税理士

 

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