本連載は、ファイナンシャルプランナー・高橋成壽氏の著書、『ダンナの遺産を子どもに相続させないで 50~70代のみなさまへ わが子のためにもなる相続と老後のマネー術』(廣済堂出版)の中から一部を抜粋し、50~70代の女性を対象とした相続対策のポイントなどをご紹介します。

根強い「家・土地は長男が相続するもの」という風潮

夫死亡後に子どもたちが相続すると、妻の生活資金は一挙に半減します。

 

そして、その後の生活に大きな影を落としてしまう場合はもちろんのこと、もし仮に、子どもたちが財産の半分を相続しても十分な資産が妻の手に残り、経済的には何ら不安のない将来設計ができている場合であっても、やはり「妻が全財産を相続する」のが「ベストの相続」だと、私は思います。

 

経済効果以上のさまざまなメリットも生まれ、そして結果的に、遺された妻と子どもたちに「よりよい親子関係」が築かれるからです。その「メリット」とは? また、なぜ「よりよい親子関係」が築かれることになるのでしょうか? それをこれからお話ししていきます。

 

日本では、戦前までは「家督相続(かとくそうぞく)」制度のもとで、一家の財産はすべて長男が継承することになっていました。

 

戦後、現在の民法が施行されて、その制度は廃止されたのですが、それから70年近く経った今も、かつての制度の名残なのでしょうか、金銭的な財産はともかく、「家・土地は、長男が相続するもの」と考える方、なんとなくでもそのような感覚を持っている方は、私の知るかぎり今でもいらっしゃいます。

 

また、「長男が家と土地を相続し、母親と同居して面倒を見る」ことが暗黙の了解になっているようなことも、ままあります。

 

もっとも、長男が仕事の事情で遠方に住んでいるため、実家を受け継いでも住めないので別の兄弟に相続させるというケースや、将来的に介護が必要になったときには、お嫁さんより娘に介護してほしいからと、娘さん夫婦と同居し、いずれはその娘さんに相続させる予定──など、現実に即した相続を考える方も増えています。

きょうだい間のいさかいで「相続が争族」に!?

ただ、どんな考え方や事情があるにせよ、最低限でも家と土地は、妻が相続するのがいちばんです。それには次のような理由があります。

 

●子どもたちの争族回避になる

まず、「当然、長男が家と土地を相続するもの」という考え方は、長男以外の子どもたちからすれば、「今どき、長男だからって当たり前のように家と土地を相続するのは、おかしい」と、文句のひとつも出てくるかもしれません。

 

また、「現在同居している子ども、あるいは将来的に同居して世話をしてもらおうと考えている子どもに相続させる」というのも、その「誰かひとり」をめぐって、きょうだい間にいさかいが起こったり、わだかまりを生じさせたりすることもあります。

 

実際、この点も非常に「争族」のタネになりやすいところなのです。まして、先にお話ししたように、家と土地くらいしか相続財産がない場合はとくに、かなり熾烈な争いになることがあります。

 

きょうだいはみな平等と各自が思っているから、きょうだいの間で争いが絶えなくるのです。

 

しかし、そもそも家や土地は、夫名義になっていたとしても、夫婦二人でこれまで守ってきたものです。まして、夫が親からあるいは先祖代々から受け継いだ土地・建物ではなく、夫の代で建てたマイホームなら、それはまさしく、夫婦二人で築いた城です。

 

子どもたちは、両親が築いた城で、守ってきた家で、育ててもらってきたのです。

 

「だから、このお城はお母さんが相続するのよ

 

そのほうが、他のきょうだいの誰かが相続するより、子どもたちの納得も得られやす
いはずです。

 

●税制上のメリットが大きい

また、妻が持ち家とその宅地を相続することで、「節税」もできるという大きなメリットがあります。それは「小規模宅地等の特例」です。これはまた後ほど、他の税制上のメリットと併せてお話しします。

本連載は、2014年12月5日刊行の書籍『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ダンナの遺産を子どもに相続させないで 50~70代のみなさまへ わが子のためにもなる相続と老後のマネー術

ダンナの遺産を子どもに相続させないで 50~70代のみなさまへ わが子のためにもなる相続と老後のマネー術

高橋 成壽

廣済堂出版

60代前後の女性は、ダンナが亡くなった後のことをほとんど考えていません。ダンナが亡くなったあと、年金が大幅に減ることも、現金がないと家や土地を子どもに半分分け与えることになってしまうことも、ほとんどの人は知りませ…

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