板山翔税理士:「売上が税込1,000万円以下であれば、2割特例が適用できる期間の納税額は、多くても年間18万円程度です。経費が多ければ還付になる場合もあります。」
2割特例とは?
もともと免税事業者である期間なのに、インボイス登録をして課税事業者となった期間は、「売上で預かった消費税の2割」だけ納税すればよいものとする2割特例が適用できます。
2割特例を使えば、仮に売上が税込990万円(内消費税90万円)であれば、消費税の納税額は18万円(90万円の2割)となります。
したがって、売上が税込1,000万円以下であれば、納税額は最大でも18万円程度で、売上が下がれば納税額も下がります。
また、消費税の申告時に、消費税の通常の計算方法(原則課税又は簡易課税)と、この2割特例のどちらか納税額が低い方を選択できるため、経費が多ければ還付になる場合もあります。
この2割特例が適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間であり、個人事業主であれば令和5年~令和8年の4回分の申告が対象になります。
※ただし、インボイス登録をしなければ免税事業者であった期間しか適用できないため、基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超えている期間などは適用できません。
その期間が過ぎた後は、従来通り原則課税か簡易課税を選ぶことになりそうです。
「第1種卸売業」以外なら、簡易課税より2割特例の方が有利
もともとあった簡易課税制度は、「売上で預かった消費税の1割~6割(事業区分による)」を納付するもので、基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下で、かつ簡易課税選択届出書を期限までに提出していない限り選択できませんでした。
また、同じ飲食店でも、店内飲食であれば事業区分第4種で4割納税、テイクアウトであれば事業区分第3種で3割納税となるなど、売上の種類によって事業区分は異なります。
しかし、2割特例は事業区分は関係なく2割の納税となり、届出をしなくても適用できるため、簡易課税のさらに簡易版といったイメージです。
1割しか納付しなくてよい第1種卸売業以外の事業区分の方は、簡易課税より2割特例の方が有利なので、簡易課税を選択するメリットは特にありません。したがって、大半の方は2割特例と、経費が多ければ納税額が減る原則課税のどちらか低い方を選ぶ形になりそうです。
そこで、最後に原則課税の計算方法についても簡単に見ておきましょう。
原則課税とは?
消費税の本来の計算方法で、売上で預かった消費税から、仕入や経費の支払時に支払った消費税を差し引いて、差額を税務署に納税します。
したがって、支払った消費税の方が多ければ、逆に税務署から消費税を還付してもらえることもあります。
売上はほとんどが消費税を預かる課税売上ですが、経費の方は消費税を支払う課税仕入だけでなく、給与(不課税仕入)や利息(非課税仕入)などの消費税を支払わない経費も多いので注意が必要です。
仮に課税売上が税込990万円、課税仕入が税込550万円として納税額を計算すると次のとおりです。
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☆計算例
①課税売上…990万円(内消費税90万円)
②課税仕入…550万円(内消費税50万円)
③納税額…90万円-50万円=40万円
※課税売上高が5億円超か、課税売上割合が95%未満の場合は、計算方法が異なりますが、紙面の関係上割愛します。
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ただし、一部の例外を除いて、インボイスを発行してもらえない課税仕入であれば、消費税10%控除ではなく8%控除になります。そのため、課税仕入550万円の内消費税が50万円なんてきれいな数字にはまずなりません(実際は内消費税は40数万円になるでしょう)。
とはいえ、この場合2割特例の方が有利(納税額18万円)なので、原則課税の計算結果はどうでもいいですし、課税仕入の際のインボイスの保存も不要です。
この事例のように、普段は2割特例の方が有利だとしても、仕事用の車を購入して消費税を何十万円も支払った年度に限っては原則課税を選ぶ、なんて場合もあります。
まとめ
今日は慣れない消費税の納税額の計算方法について解説したので難しかったかもしれませんが、計算のイメージに必要な部分だけ抜き出して解説したので、全体像はイメージできたと思います。
今イメージできたとしてもしばらくすると忘れてしまうと思いますので、この記事を保存しておいて、判断に迷ったときに見返せるようにしておいてくださいね。
板山 翔
板山翔税理士事務所 代表、税理士
おそらく日本初の「オンライン専門の税理士事務所」の創設者。自社の事業を「税理士業」ではなく、「経営に必要な情報をオンラインで提供する事業」と捉え、経営戦略コンサルタントとしても活動している。従業員5名以下の小さな会社の経営者を中心に、「小さな会社だからこそできる差別化戦略」の立て方や、「短期間で売上アップするためのマーケティング戦略」、「長期的に資産を形成していくための財務戦略」などを教えている。
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