地元NPOの手厚い支援
うちでは、入居者が引っ越してくる際には引っ越し祝いを兼ねて巻き寿司や簡単な総菜を渡すようにしている。これは、「一般的な大家とは違い、私はあなたを見守っています(目を光らせていますよ)」というメッセージでもある。
費用もそれなりにかかるといえばかかるが、慈善事業的な意味合いもあるのでずっと続けている。布団も今回は筆者のほうでサービスしてもいいかと思った。
「いや、大家さん、そんなんせんでええよ。NPOにゆうたらもらえるやろ」
男性が語るところによると、布団や照明器具、テレビ、収納家具、洋服などの着替え……、そうした一切合切は地元のNPOに連絡を取れば、すべて揃うのだという。
筆者もNPOと付き合いはあるが、そうした話は聞いたことがなかった。いや、聞こうとしなかったというか、興味がなかったのだ。だから知らなかった。
筆者「そしたらそれでええか? ほか、なんか俺にできることある?」
大家として、行政への手続きなど諸々やることはある。それに福岡の家をどうするのかも気になった。
「あっ、それはもうええわ。ほっといたらNPOがなんとかしてくれるやろ。所有権放棄します―ゆう書類作って大家に送ったら、もう終いや」
驚く筆者をよそに、男性はさらに続ける。
「入ってすぐでなんやけど、ワシ、ここ出ていくときもそうさせてもらうさかい。家の中のもんはすまんけどな、大家さんのほうで処分しといて」
一応、2年はいてもらうという約束でこの男性はこの日から入居した。その間、3月末になると「大家さん、花見行こうや」、夏になると「暑気払いや」、冬は「クリスマスや」と、何かにつけてご招待してくれる。
甚だ失礼な物言いだが、こういう場合ほとんどは、誘うだけ誘ってその費用はすべて誘われた筆者が持つことになる。しかし、この男性は違った。気前よくデパ地下の花見弁当や近所の中華料理店の仕出し弁当をご馳走してくれた。ビールに焼酎、日本酒も飲ませてくれる。
筆者「ええん? 俺もいくらか出すし、酒の類なら買ってくるよ」
「ワシ、奢られるの苦手やねん」
頑として受け取らない。受け取ってくれたのは、せいぜい筆者の東京出張時のお土産くらいだった。