体に害を与えるだけではない「活性酸素」
地球上に誕生した生物は、酸素が充満する地球環境に順応して毒性の強い酸素をも生きる手段として利用してきました。体内で酸素をエネルギーに変えることで生物は進化し、最終的に誕生したのが人類です。
私たちが呼吸によって取り入れている酸素は、食べたものを燃やしてエネルギーを作り出したり、全身の細胞の新陳代謝に利用されるなどして、各器官の機能をスムーズに働かせるために使われた後、体外へ排泄されます。これらの複雑な代謝の過程で、吸い込んだ酸素の約2~3パーセントが体を酸化させる「活性酸素」に変化しているといわれています。
活性酸素は生体を傷つけ、組織を破壊し、その機能を失わせるほど酸化力が強く、毒性が強い酸素として知られています。
実は、生命の営みはすべて電子の動き、すなわち生体内での電子移動(電子伝達ともいわれる)によって支えられています。活性酸素の分子は、プラスとマイナスの電子のバランスが崩れた、つまり電子が1つ欠落した不対電子のために不安定で腰が落ち着きません。そこで、安定を求めて暴れ回り、他の物質から電子を奪っていきます。そして、電子を奪われた物質は酸化されてしまうのです。
けれども、悪いことばかりではありません。私たちの体は、活性酸素の毒性を逆手にとり、細菌やウイルスなどを殺す武器としても利用しています。細菌などをやっつけるのは白血球という免疫細胞ですが、細菌を白血球の中に取り込んで殺すときに大量の酸素を消費して活性酸素を作り出し、その強い毒性で破壊しています。
このように、適量であれば健康維持に役立ちますが、過剰に発生すると今度は正常な細胞を破壊してしまうという諸刃の剣となるのが活性酸素なのです。
活性酸素が引き起こす炎症が老化や病気の原因に!?
では、なぜ活性酸素はそれほどまでに酸化力が強いのでしょう。
その原因は、活性酸素のフリーラジカルによるものとされています。フリーとは自由という意味ですから、電子が1つ自由になって飛び出し、過激(ラジカル)になったことを表しています。
一般に、原子核の周りを回る電子はペアになっていて、電気的にバランスがとれています。ところがフリーラジカルは、ペアになっていない不安定な不対電子として存在しています。そこで、安定しようとして、周囲にある元素や分子が持っている電子を1つ奪ったり、同じように軌道から飛び出してフリーに飛び交っている電子を1つ引き込んでしまったりします。つまり、過激な行動に出るのでフリーラジカルと呼び、極めて強い酸化力を有しているわけです。
体内に入った酸素は、「スーパーオキサイドラジカル」という活性酸素に変わり、さらに「過酸化水素」「ヒドロキシルラジカル」へと次々に形を変えて最終的には水になります。このほか、「一重項酸素」が発生することもあり、一般的にはこの4種類を活性酸素と呼んでいます。
これらは、白血球の仲間の好中球やマクロファージという免疫細胞から放出され、もともとは体内に侵入してきた細菌などを殺す役目を担っています。一般によく知られているのが過酸化水素、つまりオキシドールです。けがをしたときにオキシドールを傷口に塗ると、一瞬のうちに泡を出して(反応して)細菌を殺してくれます。これは、オキシドールと細菌との間で電子のやりとりが行われた結果、細菌が死滅したことを意味しています。
しかし、細菌などの敵がいない場所でも、活性酸素が放出されることがあります。それが「炎症」です。例えば打撲の場合、細菌が侵入したときに細胞から出されるサイトカイン(免疫刺激物質)という物質が、打撲などで細胞がつぶれたときにも出てしまって好中球を必要以上に呼び集めて炎症を起こします。炎症のほとんどに活性酸素が関わっているといわれ、歯肉炎、アトピー性皮膚炎、胃炎、腎炎、膵炎、関節炎などが挙げられます。
したがって、炎症が長く続けば続くほど活性酸素の害にさらされることとなり、老化のスピードも加速されていきます。
このように、活性酸素は免疫機能の一端を担う大事な働きをしていますが、一方では老化のスピードを速めたり、あらゆる病気の元凶にもなっているのです。